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年は明け新学期が始まる。

2週間程度の冬休みの間、#name2#は一度も赤司と顔を合わせることはなかった。年が明けたときになんとなく一言メッセージを送れば短く返信があったくらいだ。ありふれた言葉の並んだその画面を数時間おきに開いては胸の奥のあたりがくすぐったくてベッドの上で何度も転がってごまかした。

コートをしっかり着込んで手袋とマフラーを装着し#name2#は家を出た。今日は始業式だけなので午前中のうちに帰れるだろう。家の鍵をしっかりカバンに入れたことを確認してドアを開けると、なんとそこには赤司の姿があった。

赤い髪ときちんと巻かれたグレーのマフラー。#name2#が出てくる時間がわかっていたかのようにタイミングよく赤司は#name2#を見据えた。


「え、征くん?!」

「おはよう、#name2#」


母親に聞こえてしまうのが恥ずかしくて急いで扉を閉めると駆け足で赤司のもとまでいく。一体いつからいたのだろう、なぜいるのだろう。たかが2週間しか経っていないというのに酷く久しぶりに思えた。


「今日は始業式の準備で体育館が使えないんだ。昨日のうちに伝えようかと思ったんだけど、驚かせるのも悪くないと思ってね」

「そうだったんだ、びっくりしたぁ」


悪戯っ子のように笑う赤司にこんな顔もするんだなと別の意味で驚く。そもそも、こんなことを他の男子にされた日には二度と話しかけないで欲しいと思うのになぜだか赤司のことはそんな風には思えなかった。行こうか、ともう慣れたように手を差し出されたので手袋のまま握り返す。誕生日に渡した手袋をしっかりと使ってくれているあたり、本当に優しいと思う。素手で繋ぐときと違いモコモコした感覚が面白くて二人して顔を合わせて笑いあった。


「あ、そういえば」


みてみて、と携帯を取り出して目前に掲げた。携帯につけたクラゲのストラップに気づいたのか赤司も同じく携帯を取り出して見せてくれた。すでに口裏は合わせてあるので誰かに聞かれても問題ない。シンプルな黒い携帯につけられたオモチャのようなストラップがなんだかミスマッチで、あの赤司征十郎にこんなものをつけさせるのはきっとわたしくらいだと少しだけ優越感に浸れた。




****




赤司は教室に着くなりすぐに生徒会の仕事のため廊下へ出て校内を歩いていた。賑わう校内の雑踏を聴いていれば前から見慣れた緑色の髪が見えた。


「赤司」

「おはよう、真太郎」

「おはようなのだよ」


チームメイトとはほぼ毎日顔を合わせているので冬休み明けでも久しぶりではない。いつものようにネクタイをきちんと上まで閉めた緑間はおそらく今日のラッキーアイテムだろう。テーピングで保護された左手にリップクリームを持っていた。


「…おい、それは」


すれ違いざまに緑間が赤司を呼び止める。赤司が緑間の目線の先を追えばズボンのポケットからはみ出したストラップが目についた。


「ああ、これかい?」

「珍しいな、お前がそのようなものを。今日の射手座のラッキーアイテムではないが」

「そうだね。だけど僕にとっては年中ラッキーアイテムのようなものだよ」


鈍感な緑間には伝わらないと思いながら、含みを持たせてそう言えば赤司は今度こそ踵を返して去っていった。案の定、年間アイテム…?と呟く声が後ろから聞こえて赤司は友人ながら本当に純粋だと感心した。




****




始業式とHRが終わった。午前中のみで帰れる今日は部活に行く生徒や久しぶりに友人と遊びに行く生徒で賑わっている。友人たちとちょっと寄り道して帰ろうということになっている#name2#は帰り際に赤司に声をかけようと口を開いたがそれを遮ったのはクラスメイトの男子の声だった。


「俺さー、見たんだよ!#name1#が男と二人で歩いてるの。他校の奴だと思うんだけど腕組んだりしてさ」

「…ちょっと、待ってよ」


身に覚えがない、わけではない。真くんと出かけたときのことを言われてるんだと思う。ただ真くんは従兄弟で、親戚だ。彼が言いたいようなことは一切ない。わざと赤司に聞こえるように大きな声で発された言葉にクラス中が緊張感に包まれる。


「確かに従兄弟と会ったけど」


仲良いんだよね、と付け足すと散々私から話を聞かされている友人たちは納得したようだけれど、まだ赤司が何も言わないのをいいことに絶対嘘だと騒ぎ立てられた。


「なぁ赤司、どうすんだよ」

「…僕は#name2#の言葉に嘘はないと思ってるよ」


名指しされてようやく口を開いた赤司はそう言い放つと男子生徒が口籠るのを一瞥して教室を出た。い、従兄弟とあんなベタベタするかよ、とバツが悪そうに認めようとしない男子を最後に静まり返る教室で#name2#は自分に視線が集まるのを感じながら赤司を追いかけて飛び出した。後ろからは友人たちが男子生徒を咎める声が聞こえてきた。


「あの、征くんっ!」

「…どうしたんだい?」


数歩の距離を開けた先の赤司の背中を呼び止める。先ほどの冷たい目はなんだったのか、と言いたくなるような優しい笑顔で振り返る赤司に#name2#は必死に言葉を続けた。


「さっきの、本当に従兄弟だから。嘘じゃないから、だから、」

「#name2#」


赤司が近づいてくる。右手を#name2#の頭にぽん、と乗せて落ち着かせるように撫でてみせる。大丈夫、と優しい声が降ってくる。


「さっきも言ったはずだよ。#name2#は嘘をついてない、だろう?」

「信じて…くれるの?」

「当然だよ」

「よかったぁ…」

「…でも、」


どうしてそんなに僕に誤解されたくないんだい?


耳元で#name2#にだけ聞こえるようにそう呟いた赤司は頭から手を離す。どうして?どうして…?別に本当に好きで付き合ってるわけじゃないんだから、クラスのみんなさえ誤魔化せれば彼には誤解されたって構わないはずなのに。


「それは…、それは、こんな都合よく彼氏のフリしてくれる人なんて、他にいないから、だよ」


多分周りの雑踏に紛れて、その小さな声は赤司以外には届かなかっただろう。


「そうかもしれないね」


そう言った赤司の顔は見れなかった。部活に向かう背中の感情はもう読めない。どんな顔をしていたんだろう。赤司は本当に信じてくれていたんだろうか。それとも、どうでも良かったのだろうか。

聞かれたことがもう一度頭の中で繰り返されて、#name2#は静かに目を伏せる。心のままを声にしてしまえば、密かに芽生える想いに気付いてしまえば、もう後戻りが出来なくなりそうで、一つ嘘を重ねるしかなかった。


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