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土曜日、#name2#は午後から行われる試合を観るために友人と共に会場へ向かった。結局昨日の放課後は買い物に行って新しい服を購入しそれを着てきてしまった。やっぱり#name2#に似合ってるね、と選んでくれた友人から褒めてもらえたのでよしとする。別に赤司のために気合を入れたわけじゃない、と再度脳内で繰り返した。

会場に到着してから知ったが今日は決勝戦らしい。通りで周囲は多くの観客で溢れているし、大きな会場でやるわけだ。赤司から連絡があった試合の日程は今日だけだったので端からここまで勝ち進むつもりだったのだろう。


「あの辺が見やすいと思うよ」


黄瀬の応援に何度か来ている友人は見やすいポイントを教えてくれる。いつもなら多少遠慮して後ろの方に座るらしいのだが今日は#name2#がいるから前まで行こうと張り切っている。確かに主将の彼女ならばある程度見やすい場所に座ってもバチは当たるまい。バスケの試合は以前従兄弟の応援に来たことがあったが座るところまで考えなかったのでおとなしく案内されたところに座る。帝光ベンチがよく見えるギャラリーの最前席だった。

#name2#たちが到着した頃選手たちはそれぞれのコートでアップ中だった。規則正しくレイアップ練習をしていたメンバーは赤司の指示でシュート練習に移る。そのとき赤司の目線が#name2#を捉えた。

明らかに目があったので#name2#は小さく手を振ってみる。あまり目立って他の選手に気付かれては悪い。赤司は口角を上げて頷いた。隣の友人がよかったねと腕に抱きついてきたので照れたように笑って見せた。




****




「赤司、誰か来ていたのか?」

「真太郎。そうだね、今日は少し本気を出さなければいけないな」


明らかに対戦相手が理由ではないが赤司が人事を尽くすのであればなんでもいい。サボり癖のあるチームメイトならまだしも主将が真面目に取り組まないことなど今まで一度もなかったが。そうか、と返すと緑間は赤司が見ていた方向へ目を向ける。そこにはおそらく帝光の生徒であろう女子が数人、それから選手の父兄がいた。緑間には赤司が誰に合図していたのかはわからなかった。


「つーか赤司、本気出すなら俺の分まで頼むわ」

「大輝、ノルマはこなせ」

「へいへい」


ブザーの音が鳴った。赤司の集合の指示と共に選手たちはベンチに走って集まる。監督らしきスーツを着た男性からの指示は短かった。#name2#はベンチでノートに何か書き込んでいる桃色の髪の女子を見つけた。前に見かけた彼女はマネージャーだったのかと理解して納得した。マネージャーと主将なら用もあるだろうから教室で話していてもおかしくはない。

ベンチ前では赤司たちがジャージを脱ぎユニフォーム姿で円陣を組んでいた。


「はぁ~~めんどくさ~~~」

「試合前からたるんでいるのだよ、紫原」

「だって今日の相手も弱そうだし~」

「敦」

「わかってるよ~」

「でも今日は赤司っちに華持たせないとっスよね!俺ちゃんと気付いてるっスから!」

「何のことだよ」

「カ・ノ・ジョっスよ!」

「涼太、余計な気は遣わなくていい。見せ場くらい自分で作るさ。……行くぞ」


帝光の円陣は声を張り上げたりはしない。静かに何か言葉を交わすだけで赤司たちは円陣を解いた。会場内には試合開始のアナウンスが流れ選手たちはコートの真ん中に整列した。

ジャンプボールを制したのは当然紫原だ。相手が小さいわけではないのに見上げなければならないほどの巨体と腕の長さで審判が高く放ったボールは赤司の手元に弾かれた。

相手チームもこうなることを予測していたのだろう。先制点を与えるものか、とすぐにディフェンスのポジションにつく。赤司が何をしたのか#name2#にはわからなかったが、ドリブルをついた瞬間相手選手は後ろにバランスを崩して尻餅をつく。カバーに来た他の選手までも、いとも簡単に抜いて3Pラインの手前で止まり、流れるようなフォームでジャンプシュートを放った。美しい弧を描いたボールはネットに擦れる音だけを鳴らし床に落ちた。


息を呑む速さで繰り広げられた先制点に瞬きすら忘れて赤司に釘付けになる。その時#name2#は見てしまった。彼が一瞬口角をあげて笑ったところを。何がギスギスしている、だ。こんなにも楽しそうな顔をするんじゃないか。

ドキリと鳴った胸を誤魔化すように買ったばかりのスカートの裾を握りしめる。目線はずっと赤色を追いかけていた。




****




試合経過はひどいものだった。これは本当に決勝戦なのだろうか、と#name2#は思う。まるで一回戦で不運にも優勝候補と当たってしまった弱小チームの試合を見ているようだった。それほどまでに帝光の力は圧倒的で相手を寄せ付けなかった。

帝光の選手たちはほとんど個人プレーで得点を稼いでいた。真くんと同じPGとして赤司はパスを回すもののそれ以外の4人は自分の手にボールが回ってくればゴールを決める。途中交代した人はあまり得点を取っていなかったような気がするけれど。

最終Qの終わり、赤司はゴールの方へボールを放る。それを空中で掴みそのままダンクを決めたのは青峰だった。青峰がすごいのはもちろんだが、赤司のパスも正確だからこそ出来るプレー。自分がゴールを決めたわけではないがアシストが決まった赤司も一瞬だけ口角をあげた。

結局100点以上獲得した帝光はあっさりと優勝を決めた。相手チームにもはや悔しいという感情は感じられない。それほどまでに差は歴然としていた。


「やっぱりカッコよかった黄瀬くん!」

「本当、敵なし!って感じだよね~!」

「ね、#name2#、赤司くんもかっこよかったでしょ?」

「え?!あ、うん、格好良かった…」


すごい見惚れてたもんね。そう言われた#name2#は違う、と心の中で強く否定した。あれはスポーツをやっているから格好良かったんだ。バスケが上手いから見ていたんだ。真くんと同じポジションだから気になったんだ。いつものように笑おうとしたのにぎこちない顔になってしまった。


「#name2#にお願いがあるんだけどさ、」




****




#name2#は選手の控え室付近まで来ていた。手には先ほど友人に渡された紙袋を持って。

差し入れを渡して来て欲しい、というのが彼女たちの頼みだった。いつもは渡さないらしい。ただのファンである自分たちが渡してしまえば周りの女子も真似をして相当の量の差し入れが送られ迷惑になるからだそうだ。今日は#name2#からなら彼女として渡せるし、特に黄瀬宛ではなくバスケ部宛としての差し入れなので問題ないとのことだ。細かなことまで気遣いが出来る彼女たちはさぞ良いファンなんだろうと思った。

みんなで押しかけたら迷惑だし、あっちで待ってる。と一人で行くように促された#name2#はキョロキョロと赤司がいる場所を探す。別に直接渡さずとも、帝光バスケ部員に渡せれば十分なのでジャージを着ている人もいないかと目をこらすがなかなかあの白と水色を見つけることができない。


「そこのキミ!どうしたの?」


軽そうな口調で声をかけてきたのは他校のジャージを着たつり目が印象的な選手だった。覗き込まれた拍子に黒い髪がその目にかかり、人当たりの良い笑顔を向けられる。


「帝光の人に会いたいんですけど…」

「マジか、帝光の子?え、誰かのカノジョとか?あ、帝光の控え室はこっち!俺が案内してやんよ」


話しかけてきた相手に困ったように眉を下げれば案内してくれるらしい。どこの学校の人かは知らないがここは頼るのが手っ取り早いので素直に甘えることにする。


「キミ何年?俺2年だけど」

「わたしも2年だよ」

「おっタメじゃん!応援に来たの?彼氏がいるとか」

「うん!彼氏の応援!」

「へぇ~彼氏サン、優勝おめでと」


少々棘があるように思えたが素直にありがとう、と返しておく。優勝したのはうちの学校だから他校ということはどこかに負けたのだろう。こんな可愛い彼女が応援してくれるなんてマジ羨ましいな!と笑う彼は軽そうだがいい人そうだった。


「#name2#」


名前を呼ばれ足を止める。隣の彼もつられて止まり振り返った。


「こんなところでどうしたんだい」

「征くん!会えてよかった。探してたの!」


帝光のジャージを肩から掛けて颯爽と#name2#の元まで来たのは赤司だった。#name2#の隣にいる男を目を鋭く細めてみる。


「君は?」

「控え室まで案内してもらうところだったんだ。ありがとう、助かったよ!」

「そうか、僕からも礼を言おう」

「いやいーって。無事に会えて良かったな!じゃ、俺はこれで」


ヒラヒラと手を振って去って行く彼を見送る。名前も学校も聞かなかったのでどこの誰かわからないが無事に赤司と会えたのは彼のおかげだろう。


「#name2#」


赤司の鋭い瞳が#name2#を捉える。


「こんなところに一人でいたら危ないだろう。さっきのように、」

「…さっき?」


そこまで言ってからまぁいい。と彼は目を伏せた。試合後で疲れているのだろうか。何の用か聞かれたので差し入れを持って来た旨を伝えればありがとう、と受け取ってくれた。


「優勝おめでとう!これはわたしからっていうか、みんなからね」

「あぁ、ありがとう。彼女たちにも礼を言っておいてくれ」

「うん!」

「試合はどうだった?」


以前練習について聞かれたときとは打って変わって#name2#は心からの笑顔で答えることができた。今日の試合は流れこそ差がありすぎて見ていてつまらないかもしれないが赤司のプレーを見るという意味ではとても楽しむことができたからだ。相手の実力にはやっている本人たちが一番不服に違いない。それでも赤司はバスケをプレーすることだけは楽しんでいたように見えた。


「すごい格好良かったよ。それから楽しそうだった。征くんはバスケが好きなんだね」

「……!…あぁ、そうだね。オレはバスケが好きだよ」


バスケが好きだと言う赤司にいつもの威圧感がなく少し違和感を感じた。嬉しそうに、少しだけ寂しそうに笑う赤司の瞳は射抜くような鋭さを失っている。その儚げな顔になんと声を掛ければ良いかわからなかった。


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