08


昼休みになると教室はガヤガヤと賑やかになった。いつもなら友人たちと机を合わせてお弁当を広げる#name2#だが今日はそうではない。一応声だけはかけておこうと立ち上がろうとすると机の前に人影ができた。


「征くん!」

「行こうか」


そこにはファンが見れば卒倒するだろう優しい微笑みで立つ赤司の姿があった。#name2#は同じように男子たちが見れば顔が緩んでしまうような笑顔で頷くと友人に行ってくるね、と手を振って赤司と連れ立って教室を出た。仲良しだね、いいなぁと二人の様子に何の疑いも持っていない友人たちの声を背中に受けた。

廊下へ出ると赤司は一旦立ち止まってから左手を差し出してきた。一瞬何かと思ったが赤司の思惑を察した#name2#は少し恥ずかしそうに笑ってみせて右手を重ねた。

手を繋ぐのはこれが2回目。しかし昼休みの廊下では以前より随分と目立っていた。赤司の狙いはきっとこれだろう。近くにいた生徒がお似合い、と呟いたのが聞こえた。


「征くんはいつも学食なの?」

「ほとんどそうだね。#name2#はあまり行かないのかい?」

「全然行かないんだ。すっごい久しぶり。何がおすすめ?」


他愛もない会話をしながら廊下を歩いて学食に到着した。結局#name2#は赤司がオススメだというメニューを頼み空いていた席へ座る。


「やっぱり結構混んでるね。早めに来てよかった」


幸い#name2#たちが座った席のあたりは比較的空いていた。奥の方の6人がけテーブルの端に向かい合って座る。小さい声なら周りの生徒に会話が聞こえることもないだろう。しかしやはり#name2#は赤司と面と向かって食事をとる日が来るなんて、数日前からは想像がつかなかった。


「そういえば昨日はごめんね」

「…何がだい?」

「部活、観に行って。邪魔だったでしょ?」


迷惑ならそう言ってれたらよかったのに。豆腐ハンバーグを箸で切りながらバツの悪い顔をする。結局連絡はしなかったが少なからずモヤモヤとしていた。


「僕がいつ迷惑と言った?」

「言ってないけど…。全然こっち見てくれなかったでしょ?あ、別に見て欲しかったとかではないんだけど」

「そういうことか。勘違いさせてすまない。一応主将だからね、練習中に浮かれていると取られるのは困るだけさ」


目を細めて綺麗に笑う赤司の言葉に昨日からずっと刺さっていた棘が取れたようだった。言われてみれば確かに、と納得のいく理由だった。安心したことはなんとなく悟られたくなくてなるほどね。と興味のなさそうな声で返事をした。


「練習はどうだった?」

「どう、って…」


返答に困った#name2#は考えるように目線を落とした。何も言ってこない赤司は答えを待つつもりなのだろうか。観念した#name2#は少し混み合ってきた学食で周りの生徒の耳に入らないように小さい声で答えた。


「運動部ってあんまり見たことないからよくわかんないけど、結構ギスギスしてるのね。強豪校だとそうなっちゃうのかなって思ったけど」

「……そうか」

「まぁ素人目線だけどね」

「いや、間違っていないよ。もう僕らは楽しいだけでバスケをやっていられないからね」


含みのある言い方に違和感を感じて赤司の顔を見る。色素の薄い左目はいつもこちらを射抜くようで苦手だ。その目を見ていられなくて#name2#は目線を落とす。


「赤司っち~!ここいいっスか?」


突然明るい声が聞こえてはっと顔を上げて#name2#はそちらを向いた。そこには両手でトレーを持った黄瀬、紫原、青峰がいた。


「もうここしか空いてないんだよね~」

「オメーがもっと大盛りがいいとか駄々こねるからだろーが!」

「だって足りないし~」


赤司が3人に座るよう促す前からガタガタと椅子を引いて座りだしていた。赤司の隣に紫原、#name2#の隣に黄瀬が座りその隣に青峰が座った。


「騒がしくなってすまないね」

「ううん、いいよ。バスケ部の皆さんだよね?」


先ほどまでとは声のトーンを上げて#name2#はどうぞ、と3人を促した。そこにいたのは昨日体育館で見た二人と、もう一人は一度屋上で会った男子だと気付く。


「あれ、あなたは…」

「あー?誰だ?」

「大輝、僕の彼女だよ。お前が屋上で助けなかった子だ」

「…なんで知ってんだよ…」


気まずそうに目線をそらす青峰とは打って変わって黄瀬は二人の姿に目を輝かせていた。早速一緒にお昼っスね!いいっスね!と一人テンションが高い。黄瀬は一方的に#name2#に名乗り、さらには二人の名前も教えてくれた。こんなに間近で見たのは初めてだったが流石モデルをやっているだけあって整った容姿とこのノリの良さは人気があって当然だろうなと実感した。

赤司は子供のように箸を握って食べる紫原に注意していた。前も保護者のようなやり取りを見た気がして随分大きな子供がいるんだなとおかしかった。


「そういえば#name1#さん、昨日練習来てたよね?試合の応援とかも来るっスよね?」

「え、試合?」


まさか試合があるとは思わず、キョトンと赤司の顔を見る。今は3年が引退してから初めての大会、つまり新人戦の最中なのだと教えてくれた。


「#name2#の都合が良ければ観においで。僕も応援してくれたら嬉しいからね」

「…じゃあ、行ける時だけでも行くね。征くんのかっこいいところ見せてね!」


赤司は自分に対して他の人には向けないような顔を向ける。彼女という立場である以上当然なのだが、まるで演技とはわからないような優しい顔は本当に赤司の気持ちが自分に向いているような錯覚さえしてしまう。#name2#も同じようにしているし演技派だという自信があるが赤司には到底及ばないような気がした。

バスケ部の練習や試合を見に行くということは少なからず自分の時間が取られるということである。協力者という立場ではあるがそこまでしてやる義理など#name2#にはないはずだった。

たとえ回りくどい言い方になったとしても普段の#name2#なら断っていただろう。むしろ今からでも適当に理由をつければ行かなくて済むはずだ。


「友達連れて行ってもいい?」

「もちろん。一人では危ないからね。あぁでも、一緒に来るのは女子にしてほしいかな」


しかし、今の#name2#はその選択肢を忘れてしまったかのように試合を観に行くことをすんなりと受け入れていた。赤司っちって案外直球なんスね~!と黄瀬の声が聞こえるが、#name2#は優しく細められたその瞳から目を逸らすことは出来なかった。


[ < > ]


[ back ]


- Blue Ribbon -