06


結局教室につくまで二人の手は握られたままだった。見せつけるようにゆっくりと歩いていた二人が到着した頃にはクラスの大半の生徒がすでに登校していた。手を離す時に#name2#はまたあとでね、と微笑み赤司はそれに目を細めて頭を撫でてみせた。

昨日までは普通のクラスメイトだったはずの2人の異変に周囲が気がつかないはずがなく、HRが始まるまでの数分だけでもお互いに質問攻めにあった。

自分の席に集る女子生徒たちをもう時間だよ、と優しく諭して席に戻す。これは落ち着くまで大変そうだ。同じように男子に囲まれて涼しい顔をする赤司を横目に見てみると一瞬目が合ったので嬉しそうに笑って見せた。我ながらとんだ演技力だと思う。授業が始まってからも何枚も回されてくるメモに笑ってしまった。




****




「ちょっと#name2#!聞いてないよ!!」「赤司くんと付き合ってるの?!」「いつから?!」

「ま、待ってみんな、落ち着いてよ」


授業中のメモは全て無視して溜め込んだから案の定授業が終わるなり囲まれた。想定通りの状況に心の中で笑いながらも恥ずかしそうに両手を口元に当ててみる。


「…わかったわ、まず#name2#。赤司くんと付き合ってるの?」

「うんっ!」

「いつから?」

「えっと、昨日から」

「どっちから言ったの?!」


それは、と言いかけて赤司を横目で盗み見る。


「もちろん僕からだよ。ずっと#name2#のことは気になっていたからね、付き合ってほしいと言ったんだ」

「マジかよ赤司、お前相手じゃそもそも叶いっこなかったわー」


同じく男子に質問攻めにあっている赤司が今まさに#name2#が聞かれたことを答えていた。


「#name2#はいつから赤司くんのこと好きだったの?」

「割と最近かなぁ。前からカッコいいなって思ってたけど」

「でもほんとびっくりした。今まで誰から告白されてもOKしなかった#name2#と赤司くんが付き合うなんて!」

「あ、私たちは黄瀬くん派だから安心してね!」

「ふふ、それは知ってる」


今ここで#name2#に寄ってこないどころか距離を置いている女子たちは”赤司くん派”なのだろう。そういう人が出てくるのは想定内だし害さえなければ嫌ってくれてて構わない。ここで#name2#が一方的に赤司に好意を寄せているならば潰そうとしてくる人間も現れるだろうが#name2#は赤司自身が認めた恋人としてここにいるのだから彼女たちの手の出しようはない。

あとはこのまま噂が浸透して赤司と特別仲良しアピールをせずともいいようになれば完璧だ。いちいち相手を気遣った優しい振り方もしなくていい。好きな相手はいないのかとしつこく聞かれることもなくなる。従兄弟の提案はやっぱり聞くべきだと思った。

赤司はというと教室のドアからひょっこり顔を出した桃色の髪の女子に呼ばれて出て行った。


「赤司くん取られちゃったよ」

「まさか。征くんはわたしのだもん!」


あの女子が誰だかは知らないが何度か見たこともあるような気がするし赤司がこちらを気にせず一緒に行くのだから本当に何もないのだろう。それでも、自分と並ぶ時と同じくらいには彼女ともお似合いだなと思った。目の前の友人たちは”征くん”呼びを聞いて黄色い声をあげていた。




****




「赤司っちに彼女出来たって知ってるっスか!」

「そうみたいだね~」


昼休みになり同じクラスの黄瀬と紫原は並んで学食へ向かっていた。

朝練が無かった今日、黄瀬は教室に着くなり珍しく同じクラスの男子に詰め寄られた。赤司と#name1##name2#が付き合っているのは本当なのかと。何でも今朝、手を繋いで仲睦まじく登校してきたらしい。黄瀬は昨日も一緒に練習をしていた主将を思い返すが全く心当たりがない。彼女が出来たからといって浮かれる赤司の姿も想像がつかないが。そもそも特定の女子と親しくする赤司にもひどく違和感があるくらいだった。

教室では寝ているかお菓子を食べているだけのチームメイトも知っているのだからいよいよ噂は広まっているようだ。


「あ、噂をすれば!赤司っち~!学食っスか?」

「ああ、涼太と敦もかい」

「そう~赤ちんも行こ~~」


黄瀬はいつもと同じように背筋をしっかり伸ばして歩く赤司にニヤリと笑いながら問いかける。


「赤司っち、彼女出来たって本当っスか?」


何も言わないが興味はあるのか、赤司を挟んで歩く男の目線が落ちてきた。赤司はあぁ、そのことか。と小さく口元に笑みを浮かべる。


「涼太ももう知っていたんだね。そうだよ」

「それが、あの#name1#サンってのもマジっスか?」

「そうだよ」


照れもせずいつもの様子で答える赤司にやはりこの人はなんでも完璧にこなすのだと思った。恋愛に関しては自分の方が経験豊富だと思っていたのに、それすら失敗しそうにない赤司にできないことなんかないんじゃないだろうか。


「誰~?」

「前にお前に菓子をくれた子だよ」

「あ~そういえば#name1#さんって呼んでたね~~、あのカワイイ子」

「紫原っちも女子にカワイイとか思うんすね!」

「黄瀬ちん失礼~」


女子にあまり興味がなさそうな紫原でさえ可愛いと思わせ、その上誰の告白もOKしたことがない誰からも愛されるいわゆるマドンナを射止めた男が目の前にいるのだと思うと黄瀬は赤司を改めて尊敬した。


「…やっぱすげーっスわ。でも赤司っち、お昼は一緒じゃなくていいの?」

「彼女も友人たちと過ごしたいだろうしね。たまには一緒に食べようと思っているよ」


そういうお前も僕たちと一緒でいいのか?と尋ねられると黄瀬ちん振られたし~と勝手に答えられる。


「振られたんじゃないっス!」


お世辞にもいいとは言えない自分の女性関係とは違う、もっと普通のちゃんとした恋人同士なのだろうと想像して、少しだけ羨ましくなった。


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