day7


アマンダがぱちりと目を開ければそこは十四の部屋だった。昨日は十四のライブがあったけれど終わってからのことはあまり覚えていない。歌を聴いて、空却と獄と一緒に十四を待って、それから…?

少しずつ覚醒してきた頭に体を動かしてみる。十四はもう起きているのか隣にはいなかった。

起き上がるときに手首にピリリとした痛みが走ってアマンダは顔をしかめた。巻かれた包帯を見てライブ前の出来事まで思い出してしまう。これまで幾度となく十四の元を離れたことはあれど、あんな風に扱われたのは当然初めてで今になってぞわりと肌が粟立ち頭をぶんぶんと振ってその思考を追い出した。


「アマンダ~。……あ、アマンダ起きた?おはよう。…どうしたの?」

「十四くん。おはよ!ううん、なんでもないよ」


部屋の扉からひょっこり顔を覗かせた十四は既に髪もメイクも整えられている。随分ぐっすりと眠った気がして時計を見てみれば午前10時。早いとはいえない時間にアマンダはのそのそとベッドから這い出した。

この数日で恒例になったアマンダの支度。十四は顎に手を当ててさらさらとピンク色の髪を梳きその毛先をくるりと弄ぶ。よし、と小さくつぶやいてから高い位置でまとめてくるくると巻きつけていく。アマンダの長い髪は大きなお団子になり、鏡を見たアマンダは目をキラキラと輝かせて喜んだ。


「ねぇアマンダ、お腹空いてない?昨日何も食べずに寝ちゃったし」


言われて始めて気がついたと同時にぐぅと可愛らしい音が鳴り響く。こくりと頷いたアマンダに十四は作るのと外に出るのどっちがいい?と尋ねた。


「アマンダパンケーキ作りたい!」

「パンケーキかぁ、いいね!じゃあ一緒に作ろう」


十四は獄の事務所でコーヒー豆をばらまいたアマンダを思い出したが、包丁を使うわけでもないしサポートすれば大丈夫だろうとアマンダと一緒にキッチンへ向かった。

携帯を立てて料理動画を流しつつ材料を取り出していく。幸いにも家にあるもので作れそうだ。2人で携帯を覗き込んでなんとか計量を終えたところで泡立て器と一緒に材料が入ったボウルをアマンダに渡した。


「アマンダはこれを混ぜてくれる?」

「はぁい」


ぐるぐると真剣にかき回すアマンダの様子にこぼしてしまう心配は大丈夫そうだとそっと胸をなで下ろしてフライパンを火にかける。もし失敗してしまったら喫茶店にでもいくつもりではあるけれど。

初めての料理に興味津々のアマンダは早くひっくり返したいとなんども焼け目を確認したが、その度に十四が止めたおかげでいい具合に焼くことができた。ちょっとだけいびつな、でも初めてにしては上出来のパンケーキが焼きあがり仲良く食卓に向かい合った。


「今日はどうする?どこかに出かける?」

「ううん、今日はおうちにいようよ。ゴロゴロするの~!」

「いいね!最近忙しかったからな~」


食べ終わってからまたキッチンに並んで立って食器を片付ける。昨日は帰ってきた頃にはもうほとんど寝落ちていたし、傷も心配していたのだが思っていたよりも元気そうだ。

ソファに並んで座り背もたれに体を預けた。日当たりのいいそこは随分と気持ちが良い。


「アマンダ、今日お料理上手にできたから今度は空却さんと獄さんにも作りたいな」

「楽しそうだね。でも獄さんは色々うるさそうだけど」

「おれにはゆるせねぇもんが二つある!」

「あっはは、全然似てない!でもアマンダだったらなんでも許してくれそう」


獄さん優しいから大好き!うん、自分も。そばにあったクッションを抱きしめているアマンダにどこか自分は手持ち無沙汰な感じがして、今まではアマンダが腕の中にいたからなんだと気付いた。

ねぇ、十四くん。控えめに呼ばれて首を傾げてアマンダを見やれば遠慮がちにこちらを見上げていた。


「はじめて会ったときのこと覚えてる?」

「もちろん、覚えてるよ」

「あの頃のね、泣き虫な十四くんもアマンダは大好きだったよ。毎日いろんなお話をアマンダにしてくれて、大切にしてくれて、それだけでアマンダの世界は広がったの」


本当はあの頃に伝えたかったのだとにこりと笑うアマンダにぎゅっと胸が締め付けられた。


「…アマンダがいてくれただけで十分だよ」


自分で自分を肯定することしか出来なかったあの頃の自分。折れてしまいそうな心に幾度も浴びせられた心無い言葉は今でも脳に焼き付いているけれど、ずっとそばにいて自分を好きでいてくれる存在がいたのだ。


「もちろん強くなるために頑張ってる十四くんも大好き。…だけどね、空却さんと出会ってからはちょっとだけ怖かったんだ。十四くんに大切な人が出来るのはすごく嬉しかったの。でもいつかわたしを置いて行っちゃうんじゃないかって…」

「アマンダは何があっても一番の友達ッス!…だから、そんなこと絶対ないよ」

「…えへへ、うれしいな。これから先、十四くんにもっとたくさんお友達ができても、大好きな人ができても、アマンダのこと忘れないでね」

「うん、絶対。約束する」


小指を差し出せば白くて細い指が絡められる。笑っているのにどこか寂しそうなアマンダを安心させるようにぎゅっとその手に力を込めた。

それからしばらく他愛もないことを話せばあっという間に時間は過ぎた。

コテンと肩に衝撃を感じて見下ろせば眠そうに目をこするアマンダ。眠い?と声をかければこくこくと頭を縦に動かした。昨日は疲れただろうし、たくさん寝かせてあげよう。手を伸ばしてブランケットを掴んでアマンダにかけながらその肩をとんとんと一定のリズムで叩いてやる。


「このまま寝ていいよ、お昼寝しよう」

「…ん…、でも、まだもっと、お話…して…」

「うん、起きたらまたたくさん話そう。ね?」


うん、と小さくうなずいたと思えばすぐにすぅすぅと寝息が聞こえた。だらんと投げ出された手をブランケットの中に入れてやる。どうしても目に付く包帯を優しく撫でて、もう2度とあんな思いはさせないと強く誓って十四も目を閉じた。




****




目を覚ましたときにはもう外は薄暗くなっていた。肩の重みはいつしかなくなっていてアマンダの姿は見えない。十四は立ち上がって開け放ったままのカーテンを閉じ、部屋の電気をつけた。


「…アマンダ?」


キョロキョロと見渡しながらソファに戻り、ブランケットを手に取る。その下には先ほどまでアマンダが着ていた服があった。


(…なんで…?)


不自然に思って服に手を伸ばして、十四は目を大きく見開いた。

そこにはアマンダが " あった " のだから。


「…あ、アマンダ…?」


恐る恐る手にとってみれば触り心地も重さも、何もかもが1週間前と同じだった。じわりと目に涙が滲むのを必死で抑えてアマンダを優しく抱きしめる。


「…そっかぁ、戻っちゃったんだね…」


一度でも人間として会えたのが奇跡なのに、それがずっと続くような錯覚に陥っていた自分につきつけられた現実。もうあんな風に自分を呼ぶことも笑いかけてくれることもないのかもしれない。


「もっと話したかったな…、なんてワガママッスよね!別にアマンダがいなくなったわけじゃないし、さみしくなんかないよ」


もしもまた会えることがあったなら、そのときはまたたくさん話して、笑い合おう。

それまで大切にするよ、愛するアマンダ。


→ After day


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