day5
まだ暗い夜中、アマンダは息苦しさで目を覚ました。苦しいほど力を込めてアマンダを抱きしめるのは持ち主であり親友の十四。細いながら筋肉のある腕でアマンダの頭を抱え込んでいるが当の本人は酷く魘されていた。
「…じゅ、しくん…」
動くこともままならないアマンダは必死に顔を十四の胸元から上げて声を掛ける。起こしてあげないと、黒い夢に襲われている十四を救い出してあげないと。
「十四くん…!」
なんとか手を二人の体の間に滑り込ませて胸板を押す。眉間にシワを寄せて小さく声を漏らす十四の体を揺すって声をかければ十四はハッと目を覚ました。
「…あれ、アマンダ…?」
「十四くん、大丈夫だよ。怖かったよね、もう大丈夫」
「アマンダ…!お願いだから、ずっと一緒にいてね…お願い…」
大丈夫、ずっとずっと一緒だよ。先ほどまでとは打って変わって弱々しくアマンダに縋る十四の背に腕を回してぽんぽんと叩く。こうやってたまに魘される十四は、今までならその夢が終わるまでぬいぐるみのアマンダを抱きしめて一人耐えていた。だけど今なら夢から覚ましてあげることもできるし抱きしめて安心する言葉をかけることもできる。
やっぱりわたし、人間になれてよかったな。このままずっとこうしていられたらいいのにな。
****
今日は十四くんのバンドの練習がある日。その前に二人で昨日のお礼を言いに獄さんのところに来れば、お寺の修行を抜け出して来たらしい空却さんにバッタリ会った。
3人仲良く受付でお姉さんに入れてもらうように交渉を続けてしばらくして獄さんが出て来てくれた。二人は強烈なゲンコツを食らっていたけど部屋に入れてくれる獄さんは優しいと思う。
「で、今日は何しにきた」
「自分とアマンダは昨日のお礼を言いに来たッス!」
「拙僧は暇だから来た」
ドカンとソファに深く座って足を組む空却を横目に忙しいってのに…、と文句を垂れる獄はそれでも飲み物を用意すべく立ち上がってくれた。コーラ、ロイヤルミルクティと好き勝手注文をつけたのには一切耳を貸さなかったが。
「コーヒーしかねぇよ。アマンダは飲めるか?ミルクと砂糖くらいはあるが…」
「お砂糖入れたら大丈夫!ありがとう、獄さん」
「おいおい獄ァ、アマンダにだけ甘くねぇか?」
「あったりめぇだろうが、このクソガキども」
アマンダが取りやすい位置に砂糖とミルクを多めに置くと、飲んだら帰れよと言って獄はマグカップを片手にデスクへと戻った。
「空却さん、昨日はありがと!お陰でわたし生きてる!」
「なんだよ、大袈裟だな」
アマンダの頭をワシワシ撫でながらちゃんと仲直りできてよかったなー、と笑ってくれた。空却の言葉が絶望から救ってくれたのだから本当にすごい。コーヒーを一口飲んだ空却は顔を顰めてから砂糖に手を伸ばしていた。
「獄さん獄さん!自分も感謝してるッス!獄さんのお陰で仲直りできたんで!」
「おー、そりゃよかったなぁ」
「はい!…あ、そうだ。お礼にいいもの見せてあげるッスよ」
携帯を操作して獄に見せれば何だこりゃあ、と笑っている。空却とアマンダが顔を見合わせて首を傾げれば十四はこちらにも画面を見せてくれた。そこには前に撮ったアマンダと空却の写真があった。
「おい十四、まだ消してなかったのかよ!」
「生臭坊主もまだまだガキってことだなぁ」
「うっるせー!銭ゲバ弁護士!」
ギャンギャンと喧嘩を始めた二人を放ってアマンダは十四の元へ駆け寄った。十四くんとも写真撮りたい、といえば十四も嬉しそうにカメラアプリを起動させてアマンダを後ろから抱え込む。長い腕を上に伸ばして上目遣いになるように画面を覗き込んでから器用にシャッターを押した。
「わぁ!お目目キラキラしてる!」
貸して貸して、と十四の携帯を奪ってから喧嘩を続ける獄と空却のところに割り込んで二人に画面を見せた。十四くんと撮ったの!と言えば二人はぴたりと喧嘩をやめてよかったなとアマンダに笑ってくれた。
「にしても上から撮りすぎじゃねぇか?」
「こっちの方が盛れるんスよ~!獄さんも撮ってあげましょうか?」
「いや俺はいいわ…」
フィルターでもかかっているのか、やたら目がキラキラとして色味の淡いその写真に自分が写るのを想像してげんなりと返す。そういうのは若いのでやってくれや、と顔を背けた。
帰れと言いながらなんだかんだ居させてくれる獄に全面的に甘えて3人はそこで過ごしていた。一度獄がコーヒーを淹れようと立ち上がったときにアマンダが自分がやると手を上げて結果コーヒー豆を床にばら撒いたときは流石に追い出されるかと思いきや、危ねぇからじっとしてろ、と怒りもしなかったのに十四と空却は目を丸くして驚いた。
「あ、そうだ!明日自分のライブがあるんスけど来てくれませんか?」
「ライブ?」
行く行く絶対行く!と一番に手を上げたのはアマンダ。空却もまぁいいけどよ。と了承したが獄だけは断った。いつものことなのか大して気にした様子もなく十四は空却とアマンダにチケットを渡した。
「アマンダ、十四くんのライブ初めて。嬉しいな」
「いつもは鞄の中だもんね。人がたくさんいるから気をつけてね」
関係者席なので見境なく盛り上がっている人はいないだろうが、それでもアマンダと離れなくてはいけないのは不安だ。見兼ねた空却は拙僧がついてるから安心しろ、と言ってくれた。
「獄さんも一緒に行こうよ!」
「あ?だから俺はいいって…」
ヤダヤダお願い、と駄駄を捏ねるアマンダに便乗するように十四も改めてせっかくだし今回は来て欲しいッス!と言えば渋々行けたらな、と返してくれた。とうとう獄に来客のある時間になり事務所から追い出されると十四とアマンダはスタジオへ、空却は寺へ帰っていった。
****
アマンダがスタジオに来るのは初めてではない。当然ぬいぐるみの頃はいつも連れてこられていたが、人間の姿はでは初めてだった。十四がアマンダだと紹介するとバンドのメンバーはみんなすんなりと信じてくれた。
「人間になれば無くしたりしないからライブのときも心配いらないね」
「ちょっと!自分のことバカにしてないッスか?」
「してないって!…ね、アマンダちゃん。十四が嫌になったらいつでも俺んとこおいでね」
「アマンダを誑かさないで欲しいッス!」
賑やかな笑い声、わざとらしいウインクと共に言われた言葉はどう考えても冗談なのに焦る十四くんが面白かった。
練習が始まると邪魔にならないところに座って歌う十四くんを眺める。十四くん、すごく楽しそう。早くステージで歌う十四くんが見てみたい。明日が楽しみだな。
ちょっと練習を眺めていたらなんだかすごく眠たくなってきちゃった。まだ聞いてたいのに、だめだ…。十四くんの歌と鳴り響く音楽を聴きながらわたしは完全に目を閉じた。
「…じゅ、しくん…」
動くこともままならないアマンダは必死に顔を十四の胸元から上げて声を掛ける。起こしてあげないと、黒い夢に襲われている十四を救い出してあげないと。
「十四くん…!」
なんとか手を二人の体の間に滑り込ませて胸板を押す。眉間にシワを寄せて小さく声を漏らす十四の体を揺すって声をかければ十四はハッと目を覚ました。
「…あれ、アマンダ…?」
「十四くん、大丈夫だよ。怖かったよね、もう大丈夫」
「アマンダ…!お願いだから、ずっと一緒にいてね…お願い…」
大丈夫、ずっとずっと一緒だよ。先ほどまでとは打って変わって弱々しくアマンダに縋る十四の背に腕を回してぽんぽんと叩く。こうやってたまに魘される十四は、今までならその夢が終わるまでぬいぐるみのアマンダを抱きしめて一人耐えていた。だけど今なら夢から覚ましてあげることもできるし抱きしめて安心する言葉をかけることもできる。
やっぱりわたし、人間になれてよかったな。このままずっとこうしていられたらいいのにな。
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今日は十四くんのバンドの練習がある日。その前に二人で昨日のお礼を言いに獄さんのところに来れば、お寺の修行を抜け出して来たらしい空却さんにバッタリ会った。
3人仲良く受付でお姉さんに入れてもらうように交渉を続けてしばらくして獄さんが出て来てくれた。二人は強烈なゲンコツを食らっていたけど部屋に入れてくれる獄さんは優しいと思う。
「で、今日は何しにきた」
「自分とアマンダは昨日のお礼を言いに来たッス!」
「拙僧は暇だから来た」
ドカンとソファに深く座って足を組む空却を横目に忙しいってのに…、と文句を垂れる獄はそれでも飲み物を用意すべく立ち上がってくれた。コーラ、ロイヤルミルクティと好き勝手注文をつけたのには一切耳を貸さなかったが。
「コーヒーしかねぇよ。アマンダは飲めるか?ミルクと砂糖くらいはあるが…」
「お砂糖入れたら大丈夫!ありがとう、獄さん」
「おいおい獄ァ、アマンダにだけ甘くねぇか?」
「あったりめぇだろうが、このクソガキども」
アマンダが取りやすい位置に砂糖とミルクを多めに置くと、飲んだら帰れよと言って獄はマグカップを片手にデスクへと戻った。
「空却さん、昨日はありがと!お陰でわたし生きてる!」
「なんだよ、大袈裟だな」
アマンダの頭をワシワシ撫でながらちゃんと仲直りできてよかったなー、と笑ってくれた。空却の言葉が絶望から救ってくれたのだから本当にすごい。コーヒーを一口飲んだ空却は顔を顰めてから砂糖に手を伸ばしていた。
「獄さん獄さん!自分も感謝してるッス!獄さんのお陰で仲直りできたんで!」
「おー、そりゃよかったなぁ」
「はい!…あ、そうだ。お礼にいいもの見せてあげるッスよ」
携帯を操作して獄に見せれば何だこりゃあ、と笑っている。空却とアマンダが顔を見合わせて首を傾げれば十四はこちらにも画面を見せてくれた。そこには前に撮ったアマンダと空却の写真があった。
「おい十四、まだ消してなかったのかよ!」
「生臭坊主もまだまだガキってことだなぁ」
「うっるせー!銭ゲバ弁護士!」
ギャンギャンと喧嘩を始めた二人を放ってアマンダは十四の元へ駆け寄った。十四くんとも写真撮りたい、といえば十四も嬉しそうにカメラアプリを起動させてアマンダを後ろから抱え込む。長い腕を上に伸ばして上目遣いになるように画面を覗き込んでから器用にシャッターを押した。
「わぁ!お目目キラキラしてる!」
貸して貸して、と十四の携帯を奪ってから喧嘩を続ける獄と空却のところに割り込んで二人に画面を見せた。十四くんと撮ったの!と言えば二人はぴたりと喧嘩をやめてよかったなとアマンダに笑ってくれた。
「にしても上から撮りすぎじゃねぇか?」
「こっちの方が盛れるんスよ~!獄さんも撮ってあげましょうか?」
「いや俺はいいわ…」
フィルターでもかかっているのか、やたら目がキラキラとして色味の淡いその写真に自分が写るのを想像してげんなりと返す。そういうのは若いのでやってくれや、と顔を背けた。
帰れと言いながらなんだかんだ居させてくれる獄に全面的に甘えて3人はそこで過ごしていた。一度獄がコーヒーを淹れようと立ち上がったときにアマンダが自分がやると手を上げて結果コーヒー豆を床にばら撒いたときは流石に追い出されるかと思いきや、危ねぇからじっとしてろ、と怒りもしなかったのに十四と空却は目を丸くして驚いた。
「あ、そうだ!明日自分のライブがあるんスけど来てくれませんか?」
「ライブ?」
行く行く絶対行く!と一番に手を上げたのはアマンダ。空却もまぁいいけどよ。と了承したが獄だけは断った。いつものことなのか大して気にした様子もなく十四は空却とアマンダにチケットを渡した。
「アマンダ、十四くんのライブ初めて。嬉しいな」
「いつもは鞄の中だもんね。人がたくさんいるから気をつけてね」
関係者席なので見境なく盛り上がっている人はいないだろうが、それでもアマンダと離れなくてはいけないのは不安だ。見兼ねた空却は拙僧がついてるから安心しろ、と言ってくれた。
「獄さんも一緒に行こうよ!」
「あ?だから俺はいいって…」
ヤダヤダお願い、と駄駄を捏ねるアマンダに便乗するように十四も改めてせっかくだし今回は来て欲しいッス!と言えば渋々行けたらな、と返してくれた。とうとう獄に来客のある時間になり事務所から追い出されると十四とアマンダはスタジオへ、空却は寺へ帰っていった。
****
アマンダがスタジオに来るのは初めてではない。当然ぬいぐるみの頃はいつも連れてこられていたが、人間の姿はでは初めてだった。十四がアマンダだと紹介するとバンドのメンバーはみんなすんなりと信じてくれた。
「人間になれば無くしたりしないからライブのときも心配いらないね」
「ちょっと!自分のことバカにしてないッスか?」
「してないって!…ね、アマンダちゃん。十四が嫌になったらいつでも俺んとこおいでね」
「アマンダを誑かさないで欲しいッス!」
賑やかな笑い声、わざとらしいウインクと共に言われた言葉はどう考えても冗談なのに焦る十四くんが面白かった。
練習が始まると邪魔にならないところに座って歌う十四くんを眺める。十四くん、すごく楽しそう。早くステージで歌う十四くんが見てみたい。明日が楽しみだな。
ちょっと練習を眺めていたらなんだかすごく眠たくなってきちゃった。まだ聞いてたいのに、だめだ…。十四くんの歌と鳴り響く音楽を聴きながらわたしは完全に目を閉じた。