day3
わたしはアマンダ。十四くんのお友達。本当はぬいぐるみだけど今は人間の姿をしているの。なんでかってそれはわたしにもわからないんだけど、きっと十四くんとわたしがお話したいって強く願ったからだと思う。大好きな十四くんとお話出来て、今わたしすごく幸せ。
今日は獄さんに会いに行こうって昨日の夜話していたのに十四くんはまだ夢の中。買ってもらったお気に入りのグレーのワンピースに着替えて、昨日やってもらったように髪も整えようとしたけれど上手く出来なかったからやっぱり十四くんにやってもらうつもり。アラームもかけていないし起きる気配は当分なさそう。十四くんは基本的に夜型だから。
こんなんじゃ時間がなくなっちゃうから、わたしはお布団の端っこを抱きしめて眠っている十四くんのお腹に跨ってその体を思い切り揺すった。
「じゅ~しく~ん!起きて!」
「うっ…、アマンダ…?」
「起きて起きて!」
「お、重いよアマンダ~」
体を揺するわたしの腕を捕まえて十四くんは自分の方に引き寄せる。バランスを崩したわたしは十四くんの上に倒れこんでしまった。
「きゃ!」
「おはよ、アマンダ」
額と額をくっつけてへにゃりと笑う十四くん。わたしを抱きしめてごろんと横向きに転がって、わたしはせっかく着替えたのに再びベッドに戻ってしまった。
「十四くん、起きてよ~!」
「う~~ん、うん、起きる。起きるよ。アマンダはちゃんと起きてて偉いね」
よしよし、と頭を撫でてもらえるのは嬉しいけど十四くんは起きようとする気配がない。
「んもぅ!起きないならこうだ~~!」
「わ、あっ!あはは、や、やめっ!お、おきっ、起きるからっ」
十四くんの脇腹を擽れば体を捩らせて逃げようとする。なんとか体を起こした十四くんは肩で息を整えていた。おはよう、と声をかければ十四くんは返事をしてようやくベッドから立ち上がった。
「今日は獄さんに会えるから楽しみにしてたの!十四くん早くいこ?」
「わかったよ、ちょっと待ってて」
着替えて支度を整えてから今日もアマンダの髪をセットする。昨日は使っていなかったコテを取り出してくるくると巻いてくれるのが嬉しくて振り返ろうとしたら動かないで、と頭を押さえられてしまった。
「わぁ!すごい!十四くん上手だね!」
「アマンダが可愛いからついやりたくなっちゃうんだ。似合ってるね!」
毛先がくるんと巻かれた髪を二つに括られて軽く前髪も巻かれる。十四くんはすごい。わたしが毛先を見て遊んでいる間にメイクもしてもらって、一緒に獄さんの事務所へ向かった。
****
「大変申し訳ございませんが、四十物様のご来訪はお断りするよう言われておりますので…」
「貴殿は我と獄の逢瀬を阻む気か?」
「ですからその天国さんから…」
「…会えないの?」
「…う…、ごめんなさいね、お嬢さん」
獄の法律事務所の受付で二人は足止めを食らっていた。いつもは十四が一人で突然現れるのに今日は見たことのない女の子を連れていて、その泣きそうな顔に狼狽つつも受付のお姉さんはきちんと言いつけを守り通そうとしている。
「むぅ…どうすれば……。…あ!そうだ!ねぇ、アマンダ」
「?」
何か思いついたらしい十四は大きな体を折ってアマンダの耳元に口を寄せた。
「(獄さんのこと、パパって呼んでよ)」
そう言われたアマンダは頷いてから受付嬢に向き合う。再びその潤んだ目で見られた受付嬢は揺らぎそうになるのをぐっとこらえているようだ。
「…あの、パパに会いに来たんですけど…、ダメですか?」
「…え?!パパ?!」
目を丸くして驚かれたのに、うん、と頷いてみせる。案の定冷静な判断力を失った彼女は内線を獄に繋いでくれた。
「あ、あの、天国さん…!娘さんがいらっしゃってますが……、はい。え?いえ、ですから娘さんですよ。申し訳ありません、私存じあげなくて…あ、あと四十物…」
会話の途中だったようだが、こちらにまで聞こえてくるくらい乱暴に切られた通話を終えてから、今こちらに見えますよ、と教えてくれた。
「ありがとう、お姉さん!よかったね、十四くん!」
「えへへ、そうだね。……あ!獄さぁ~ん!!」
十四が目を向けた先を見やればズカズカと大股で歩いてくる獄の姿が見えた。その顔は眉間にしわを寄せて目を鋭く細めている。
「十四!!!テメェ何しに来やがった、だいたい娘って…」
「パパ~!!」
「…………ッ?!」
獄は十四の陰にいたアマンダに気付いていなかった。娘が来たなど、当然心当たりのない獄はイタズラなら追っぱらおうと凄んでいたが、受付に十四の姿を見つけてさらに見知らぬ少女に抱きつかれるとは。そっと視線を自分の胸元に落としてみれば桃色混じりのブロンドヘアが見える。服の雰囲気からして十四の知り合いだろうが見たこともなければ、十四から話に聞いたこともなかった。
「獄さん!聞いてくださいよー!」
「…チッ、うるせぇから俺の部屋に行くぞ。コイツはお前の知り合いか?おら、離れろ。いいか?俺はパパじゃない」
「はぁい」
指を立ててアマンダを見下ろし、強く言い放てば獄は行くぞ、と踵を返した。
****
獄の部屋に入り向かいのソファに座る。綺麗に整頓されたその部屋にアマンダが入るのは何度目かわからないがこうやって部屋を見渡すのは初めてでキョロキョロとしてしまった。
「で?くだらねぇ嘘まで吐いて今日は何しに来た?あとソイツは誰だ」
「嘘吐いたのは悪かったッスけど…、そうでもしないと入れてもらえなさそうで。ところで獄さん!この子、誰だと思います?!」
「だからそれを聞いてんだろうが!人の話を聞け!」
「じ・つ・は!アマンダなんッスよ~!」
「アマンダだよ!」
わぁい、ときゃっきゃしながら言っても獄は眉間にシワを寄せたまま十四を睨みつけたままだった。
「十四…お前、病院行くか?」
「ちょっと酷いッスよ!それじゃあ自分が可哀想な奴みたいじゃないッスか」
「頭がおかしくなっちまってるからなぁ、可哀想な奴に違いねぇよ」
空却さんと同じこと言うんスね…。恨めしそうに獄を見てから本当なんッス!と再び声を大にして叫んだ。
「獄さん、本当だよ!わたしアマンダだよ!」
「お嬢ちゃんまで言うかよ…。いいか?よく聞け。俺には我慢ならねぇモンが2つある。一つ、生ハムの巻かれたメロン。二つ、大人をおちょくるガキだ」
わかったらとっとと帰れ、俺は忙しいんだ。しっしっと追い払うように手を振って獄は外方を向く。
「信じてくれないんスか…」
「空却さんは信じてくれたのに!」
「…空却が?マジかよ。…だいたいな、ぬいぐるみが急に人間になったって信じられるわけねぇだろ。なんでこうなったんだよ」
「おととい、朝起きたら自分と一緒に寝てたんッス!」
ね!とアマンダに言えばうん!と笑顔が返ってくる。住居侵入罪だろ、と言えば二人同時に法律ジョークだ!と笑われた。
「…はぁ。まぁいい。で、百歩譲ってその子がお前のぬいぐるみだったとして、どうするんだよ?」
「え?どうするって…?」
「このままでいいってか?」
「…アマンダ、このままいちゃダメなの?」
アマンダが上目遣いで獄を見上げれば一瞬言葉に詰まった獄は目線をそらして十四に目を向ける。
「…いいとかダメとかじゃねぇんだ。どうやって生きていくんだって話だよ」
戸籍は?社会保険は?仕事はするのか?人が生きていくには色々必要なものがあるんだ、と怒るわけではないが言い聞かせるように伝える獄に十四は言い返せず黙り込んでしまった。
「……じ、自分は、アマンダと離れたくないッス!折角こうして会えたのに…。どうにかする方法はないんスか?!」
「わたし十四くんと一緒にいたい!出来ることだったらなんだってするよ…」
「…ったく、しょうがねぇな。お前らがすぐ諦めるようなら放っておこうと思っていたがそうもいかなそうだな」
俺がどうにかしといてやるよ。獄のその一言に十四とアマンダは手を合わせて喜んだ。
「そういやお前ら、飯はもう食ったか?」
「まだッス!」
「ちょうどいい、行くぞ」
アマンダは立ち上がった獄を追いかけて後ろをパタパタと走る。獄の側まで行けば下から覗き込むように獄を見上げた。
「獄さん、ありがとう。大好き!」
獄の腕にしがみつくように抱きつけば馬鹿、離れろ!と慌てているけれどそんなことは御構い無しだ。たとえロビーに出た時にコソコソ噂をされていたとしても。
(しばらくは様子見だな。空却にも聞いとくか)
自分とアマンダを引き剥がしてアマンダの手を取る十四を見る。昔に比べて表情豊かになった十四は今まで見た中でも一番楽しそうに笑っている。悪さをするようには見えない少女だが、どうか繊細なアイツが傷つく結果にならないで欲しい、と願う自分はもう随分と歳を取ったようだ。
今日は獄さんに会いに行こうって昨日の夜話していたのに十四くんはまだ夢の中。買ってもらったお気に入りのグレーのワンピースに着替えて、昨日やってもらったように髪も整えようとしたけれど上手く出来なかったからやっぱり十四くんにやってもらうつもり。アラームもかけていないし起きる気配は当分なさそう。十四くんは基本的に夜型だから。
こんなんじゃ時間がなくなっちゃうから、わたしはお布団の端っこを抱きしめて眠っている十四くんのお腹に跨ってその体を思い切り揺すった。
「じゅ~しく~ん!起きて!」
「うっ…、アマンダ…?」
「起きて起きて!」
「お、重いよアマンダ~」
体を揺するわたしの腕を捕まえて十四くんは自分の方に引き寄せる。バランスを崩したわたしは十四くんの上に倒れこんでしまった。
「きゃ!」
「おはよ、アマンダ」
額と額をくっつけてへにゃりと笑う十四くん。わたしを抱きしめてごろんと横向きに転がって、わたしはせっかく着替えたのに再びベッドに戻ってしまった。
「十四くん、起きてよ~!」
「う~~ん、うん、起きる。起きるよ。アマンダはちゃんと起きてて偉いね」
よしよし、と頭を撫でてもらえるのは嬉しいけど十四くんは起きようとする気配がない。
「んもぅ!起きないならこうだ~~!」
「わ、あっ!あはは、や、やめっ!お、おきっ、起きるからっ」
十四くんの脇腹を擽れば体を捩らせて逃げようとする。なんとか体を起こした十四くんは肩で息を整えていた。おはよう、と声をかければ十四くんは返事をしてようやくベッドから立ち上がった。
「今日は獄さんに会えるから楽しみにしてたの!十四くん早くいこ?」
「わかったよ、ちょっと待ってて」
着替えて支度を整えてから今日もアマンダの髪をセットする。昨日は使っていなかったコテを取り出してくるくると巻いてくれるのが嬉しくて振り返ろうとしたら動かないで、と頭を押さえられてしまった。
「わぁ!すごい!十四くん上手だね!」
「アマンダが可愛いからついやりたくなっちゃうんだ。似合ってるね!」
毛先がくるんと巻かれた髪を二つに括られて軽く前髪も巻かれる。十四くんはすごい。わたしが毛先を見て遊んでいる間にメイクもしてもらって、一緒に獄さんの事務所へ向かった。
****
「大変申し訳ございませんが、四十物様のご来訪はお断りするよう言われておりますので…」
「貴殿は我と獄の逢瀬を阻む気か?」
「ですからその天国さんから…」
「…会えないの?」
「…う…、ごめんなさいね、お嬢さん」
獄の法律事務所の受付で二人は足止めを食らっていた。いつもは十四が一人で突然現れるのに今日は見たことのない女の子を連れていて、その泣きそうな顔に狼狽つつも受付のお姉さんはきちんと言いつけを守り通そうとしている。
「むぅ…どうすれば……。…あ!そうだ!ねぇ、アマンダ」
「?」
何か思いついたらしい十四は大きな体を折ってアマンダの耳元に口を寄せた。
「(獄さんのこと、パパって呼んでよ)」
そう言われたアマンダは頷いてから受付嬢に向き合う。再びその潤んだ目で見られた受付嬢は揺らぎそうになるのをぐっとこらえているようだ。
「…あの、パパに会いに来たんですけど…、ダメですか?」
「…え?!パパ?!」
目を丸くして驚かれたのに、うん、と頷いてみせる。案の定冷静な判断力を失った彼女は内線を獄に繋いでくれた。
「あ、あの、天国さん…!娘さんがいらっしゃってますが……、はい。え?いえ、ですから娘さんですよ。申し訳ありません、私存じあげなくて…あ、あと四十物…」
会話の途中だったようだが、こちらにまで聞こえてくるくらい乱暴に切られた通話を終えてから、今こちらに見えますよ、と教えてくれた。
「ありがとう、お姉さん!よかったね、十四くん!」
「えへへ、そうだね。……あ!獄さぁ~ん!!」
十四が目を向けた先を見やればズカズカと大股で歩いてくる獄の姿が見えた。その顔は眉間にしわを寄せて目を鋭く細めている。
「十四!!!テメェ何しに来やがった、だいたい娘って…」
「パパ~!!」
「…………ッ?!」
獄は十四の陰にいたアマンダに気付いていなかった。娘が来たなど、当然心当たりのない獄はイタズラなら追っぱらおうと凄んでいたが、受付に十四の姿を見つけてさらに見知らぬ少女に抱きつかれるとは。そっと視線を自分の胸元に落としてみれば桃色混じりのブロンドヘアが見える。服の雰囲気からして十四の知り合いだろうが見たこともなければ、十四から話に聞いたこともなかった。
「獄さん!聞いてくださいよー!」
「…チッ、うるせぇから俺の部屋に行くぞ。コイツはお前の知り合いか?おら、離れろ。いいか?俺はパパじゃない」
「はぁい」
指を立ててアマンダを見下ろし、強く言い放てば獄は行くぞ、と踵を返した。
****
獄の部屋に入り向かいのソファに座る。綺麗に整頓されたその部屋にアマンダが入るのは何度目かわからないがこうやって部屋を見渡すのは初めてでキョロキョロとしてしまった。
「で?くだらねぇ嘘まで吐いて今日は何しに来た?あとソイツは誰だ」
「嘘吐いたのは悪かったッスけど…、そうでもしないと入れてもらえなさそうで。ところで獄さん!この子、誰だと思います?!」
「だからそれを聞いてんだろうが!人の話を聞け!」
「じ・つ・は!アマンダなんッスよ~!」
「アマンダだよ!」
わぁい、ときゃっきゃしながら言っても獄は眉間にシワを寄せたまま十四を睨みつけたままだった。
「十四…お前、病院行くか?」
「ちょっと酷いッスよ!それじゃあ自分が可哀想な奴みたいじゃないッスか」
「頭がおかしくなっちまってるからなぁ、可哀想な奴に違いねぇよ」
空却さんと同じこと言うんスね…。恨めしそうに獄を見てから本当なんッス!と再び声を大にして叫んだ。
「獄さん、本当だよ!わたしアマンダだよ!」
「お嬢ちゃんまで言うかよ…。いいか?よく聞け。俺には我慢ならねぇモンが2つある。一つ、生ハムの巻かれたメロン。二つ、大人をおちょくるガキだ」
わかったらとっとと帰れ、俺は忙しいんだ。しっしっと追い払うように手を振って獄は外方を向く。
「信じてくれないんスか…」
「空却さんは信じてくれたのに!」
「…空却が?マジかよ。…だいたいな、ぬいぐるみが急に人間になったって信じられるわけねぇだろ。なんでこうなったんだよ」
「おととい、朝起きたら自分と一緒に寝てたんッス!」
ね!とアマンダに言えばうん!と笑顔が返ってくる。住居侵入罪だろ、と言えば二人同時に法律ジョークだ!と笑われた。
「…はぁ。まぁいい。で、百歩譲ってその子がお前のぬいぐるみだったとして、どうするんだよ?」
「え?どうするって…?」
「このままでいいってか?」
「…アマンダ、このままいちゃダメなの?」
アマンダが上目遣いで獄を見上げれば一瞬言葉に詰まった獄は目線をそらして十四に目を向ける。
「…いいとかダメとかじゃねぇんだ。どうやって生きていくんだって話だよ」
戸籍は?社会保険は?仕事はするのか?人が生きていくには色々必要なものがあるんだ、と怒るわけではないが言い聞かせるように伝える獄に十四は言い返せず黙り込んでしまった。
「……じ、自分は、アマンダと離れたくないッス!折角こうして会えたのに…。どうにかする方法はないんスか?!」
「わたし十四くんと一緒にいたい!出来ることだったらなんだってするよ…」
「…ったく、しょうがねぇな。お前らがすぐ諦めるようなら放っておこうと思っていたがそうもいかなそうだな」
俺がどうにかしといてやるよ。獄のその一言に十四とアマンダは手を合わせて喜んだ。
「そういやお前ら、飯はもう食ったか?」
「まだッス!」
「ちょうどいい、行くぞ」
アマンダは立ち上がった獄を追いかけて後ろをパタパタと走る。獄の側まで行けば下から覗き込むように獄を見上げた。
「獄さん、ありがとう。大好き!」
獄の腕にしがみつくように抱きつけば馬鹿、離れろ!と慌てているけれどそんなことは御構い無しだ。たとえロビーに出た時にコソコソ噂をされていたとしても。
(しばらくは様子見だな。空却にも聞いとくか)
自分とアマンダを引き剥がしてアマンダの手を取る十四を見る。昔に比べて表情豊かになった十四は今まで見た中でも一番楽しそうに笑っている。悪さをするようには見えない少女だが、どうか繊細なアイツが傷つく結果にならないで欲しい、と願う自分はもう随分と歳を取ったようだ。