day2


翌朝十四は目を覚ますと自分の背中に温もりを感じた。後ろからしがみつくように回された細い腕はアマンダのもの。昨日から人間の姿で一緒にいてくれている友達。

うるさく鳴り響くアラームを止めてまだ目を覚まさないアマンダの方を振り返ってからその腕を優しく解いた。今日は空却のところで修行だから遅れたらドヤされる。先に準備をしてからアマンダの準備を手伝おうと思って起き抜けの体をなんとか洗面所まで向けた。

ヘアセットとメイクを完璧にしてからアマンダの眠るベッドに近づく。そっと肩を揺すりながら声を掛ければすぐにその瞳は開かれた。


「おはよう、アマンダ」

「…おはようじゅうしくん」

「今日は空却さんのところに行くからね」

「…う~~、うん、そっか…わかった…」


寝起きでまだ脳が覚醒していないのか、ぐずぐずと枕に頬を押し付けるアマンダをなんとか起こして洗面所へ向かわせる。アマンダが着替え終わってから髪を整えてメイクもしてあげた。指輪はサイズが合わないがチョーカーくらいなら自分のでも着けられそうなので最後につけてから時計を見ればもう行かなくてはいけない時間だ。


「あ、アマンダ、そろそろ行こう!」

「はぁい」


空却はきっとびっくりするだろう。驚かせようね!と十四が楽しそうに言ってもアマンダは十四の腕をしっかりとつかんで俯いていた。まだ眠いのか、初めてこの姿で会う空却に緊張しているのか。十四がその頭を優しく撫でればアマンダは少しだけ顔を上げて甘えるように撫でてくれる手に擦り寄った。




****




「空却さん、おはようございます!」

「おー、十四、来たか。おはよー。……ん?」


空却の寺に到着すれば彼の姿は既にあって濡れた雑巾をプラプラと揺らしながら寝転んでいた。十四の後ろに隠れるように立つアマンダに気付き空却は目を鋭く細めた。


「誰だソイツ。十四テメェ女連れで修行たぁいい度胸じゃねぇか」

「ち、ちがうんスよ~!空却さん、この子はアマンダッス!」


ほらアマンダ、空却さんだよ。怖くないよ。未だ十四の後ろに隠れているアマンダの背中をそっと押して前に出るように促せばおずおずと顔を出すアマンダ。

ぺこりと頭を下げてからまだアマンダは十四の影に隠れた。空却はぽかんとした顔をしている。


「…は?……十四、ついに頭おかしくなっちまったか…。どう見ても人間だろーが!」


ズカズカと近づいてアマンダを指差して言う空却に十四も負けじと反論する。人間だけどアマンダなんッス!はぁ?!と二人がヒートアップする中アマンダは十四のジャケットの裾をぎゅっと握りしめていた。


「本当にこの子がアマンダなんッス!ね、アマンダ!…アマンダ?どうしたの?」


アマンダの様子に気づいた十四が声をかけるとアマンダはその瞳にたっぷりの涙を溜めて十四を見上げた。


「じゅうしくん、」

「わっ!あ、アマンダ?!」


目線を合わせるように屈んだ十四の胸に飛びつく。慌てながらも十四はアマンダを受け止めてその小さな頭を撫でた。


「テメェ、誰だか知らねぇが邪魔するんなら帰れや」

「空却さんそんな言い方!ねぇ、どうしたの?アマンダ」

「…空却さん…嫌……」


名前を呼ばれて眉を吊り上げて威嚇する空却に十四はひぃ!や、やめてください!とアマンダを庇うように抱え込む。


「…空却さん、アマンダのことブスって言うし、振り回したり投げたりするんだもん…」

「あ?………や、やってねーよ、んなこと」

「えぇ!自分が見てない間にそんなことしてたんスか?!空却さん酷いッス!」


空却は焦った。確かに十四が席を外したときに鞄からはみ出すアマンダをそんな風にしたこともあった。いつもいつも大事に持ち歩いているその豚をつまみ上げてブスだなぁと笑って少し手で持て遊んでから十四が戻ってくる気配がして鞄に放ったのだ。でもそのときは周りに誰もいなかったので誰かが知っているはずがなかった。


「お前なんで知ってんだよ…」

「やっぱり本当なんスね?!そりゃあやられた張本人なんだから知ってるに決まってるじゃないッスか!」


アマンダに謝ってください!とわーわー喚く十四と未だじっとこちらを恐怖を含んだ軽蔑のような眼差しで見つめる少女。二人が嘘を言っているようにも見えず空却は口籠る。一体なにがどうなればぬいぐるみが人間になるんだ、おとといまでは普通にぬいぐるみだったのに。いやそもそも投げたりしたのだって人間相手じゃないんだから。


「…ぬいぐるみのときの話だろ!」

「人を傷つけたら謝るのが当然っすよ!」

「いやコイツ人じゃねぇ…!…チッ……わるかったよ」


批難する二つの視線に観念したように後頭部をガシガシと掻いてアマンダに向き合う。空却よりも小さい少女は十四にしがみついたまま空却を見上げてきた。


「もうアマンダに酷いことしない?」

「しねーよ」

「ブスじゃない?」

「ブスじゃねーって」

「アマンダかわいい?」


一瞬頷きそうになってからはぁ?!と声を上げた。まっすぐこちらを見る少女は十四からその手を離して空却に一問ずつ詰め寄るように問いかける。


「かわいくない…?」

「……あーあー、わーったよ!可愛いよ!だからちょっとお前離れろ!」


ぐい、と顔を寄せるアマンダの肩を押して遠ざける。その薄い肩に触れても普通の人間の感触であの小さなぬいぐるみとは思えるわけがない。可愛いと伝えれば満足したのかアマンダは初めて空却に笑顔を見せた。

~ピロリン♪

軽快な電子音に続いてふふふ、と笑い声が聞こえる。


「十四テメェ何撮ってやがる!消せ!」

「それは嫌ッス!こんな空却さんなかなか見れないからあとで獄さんにも見せてあげよっと!」


見せて見せて!とアマンダが十四に駆け寄れば慌ててアマンダを押しのけている空却とにこりと笑うアマンダの姿が写っている。空却さんも案外可愛いところあるでしょ?本当だね!きゃっきゃと楽しそうに笑う二人に空却はテメェ、と低い声で唸った。


「今日はみっちりしごかれてぇみたいだな」

「ひぃ!お手柔らかにお願いするッス…」


おら、マイク持てや!と既に臨戦態勢な空却に十四は急いでマイクを取り出した。


「アマンダは危ないから離れててね」

「うん。十四くん、頑張ってね」

「うん!」


端っこにちょこんと座ったアマンダを確認してから空却の元へ走る。いつも見守ってくれているだけで心強いのに一言応援が増えるだけでこんなにも頑張ろうと思えてくる。自分が変わろうと思えたのは獄と空却と、アマンダのおかげだなと改めて思った。


「このこと獄は知ってんのか?」

「まだ言ってないんスよ~」

「ふーん、まぁいいけどそのうち言っとけよ」

「はい!獄さんも絶対びっくりしますよね~」


驚いた顔の獄を想像すればアマンダを紹介するのが楽しみになってくる。ちら、とアマンダを見やれば目が合ってニコニコ笑って手を振ってくれた。デレデレしてんじゃねぇ!と怒鳴られてマイクを起動させられたけど今日も1日頑張ろう。


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