08


朝からどんよりと曇っていた今日、#name2#がバイト先に到着すると同時についに雨が降り出した。梅雨入りしてからしばらく、青空を見ていない#name2#はいい加減気持ちが滅入るのを感じて小さくため息をこぼした。

雨宿りに寄ったのか、少し濡れてしまった客を案内しながら再び開いた扉を見ればそこには銀時の姿があった。しばらく見ていなかったその顔に、そういえば前に会ったのは総悟と一緒の時だったと思い出した。席へ案内するなり黒蜜きなこ銀時スペシャルなんて長ったらしい名前で注文してきた。全部サービスのトッピングである。


「あの、銀さん。総悟くんなんですけど」

「そうそうソレね。悪りぃな、知らなかったんだわ。沖田くんと#name2#ちゃんがまさかいい関係だったなんてなぁ」

「いえ、違うんです。あの日一緒にいたのもなんていうか、仕方なくというか…全部桂さんが悪いんです!」


ヅラ?と目を丸くする銀時に経緯を簡単に話せば納得してくれた。ドS王子なんてあまりにもぴったりのあだ名をつけるものだからつい笑ってしまったけれど。だから、総悟くんとは何もありませんと改めて釘を刺して厨房へ戻ろうとした足は銀さんに呼び止められて止まった。


「まぁなんつーか、その様子ならまだヅラはここ通ってんだろ?で、#name2#ちゃんと沖田くんも何もない」

「?はい、そうですね」

「まぁ別にどうしてもってわけじゃないんだけどよ、ちょっと一個頼まれてくんない?」


なんですか?と尋ねたわたしに銀さんは至極面倒そうな顔のまま口を開いた。




****




お昼過ぎ、少しお店が空いてきた頃に店内へ入ってきたのは桂さんだ。エリザベスさんも一緒である。かちゃかちゃとスプーンを拭いていた手を止めて#name2#は二人のもとへ向かった。


「いらっしゃいませ」

「あぁ、#name2#殿。今日も会えて嬉しいぞ」

「…そうですね…。…えーっと、こちらへどうぞ」


口をはくはくと動かして、それでもなんとなく言おうとしたことを言うタイミングを見つけられずひとまずいつものように席へ案内した。今日は二人とも蕎麦を注文してきたので出来上がるまで再び拭きかけだったスプーンを手に取った。


「はぁ」

「どーしたんすか、ため息なんかついて」

「多田くん…。ううん、なんでもないの」


なんかあれば言ってくださいよ!と頼もしい後輩に笑って見せる。別に、大したことではないのだ。なんとなく気恥ずかしいというだけで。案外目敏い後輩にはもしかしたらバレバレなのかもしれないけれど。

桂のことを意識するな、と思えば思うほど#name2#の頭の中に彼の顔が浮かんでくる頻度はどんどん増えて、彼が来店するまでチラチラと時計を確認する癖までできてしまった。別に今日も捕まってなかった、と確認しているだけなのだと誰に言うでもなく自分に言い訳をして。加えて銀時のあの”お願い”があって今日は一段とそわそわしていた。


「わ、わたし休憩に入ろうかな!多田くんしばらくお願いね?」

「え?はい、了解っす」


大量の拭き終わったスプーンと布巾を戻して#name2#は足早に休憩室へ向かった。ちょうど出来上がった桂たちの蕎麦も多田くんにお願いすることにして。

休憩室へ入れば店長が何やらゴソゴソと箱を漁っていた。何してるんですか?と聞けば夏の準備だと返された。確かに氷と書かれた吊下げ旗も入っている。


「かき氷いつからですか?」

「7月からの予定だよ。新作も考えたいから#name1#さん協力してね~」

「はぁい」


店内の装飾も夏仕様に変えたいのだと言う店長といろいろと相談をしていれば休憩時間は終わりに近づいていた。今日の閉店後から少しずつ準備を始めるらしい。#name2#の提案した涼しげな水色基調のメニュー表も気に入ってくれたようで早速作り始めるようだ。


「じゃあわたしは戻りますね。休憩ありがとうございました」

「あ、ちょっとまって#name1#さん」


これ、もう雨上がってるから店先につけてきて、と渡されたのは金魚の絵の書かれた風鈴。店の表に出てみれば、確かに店長の言った通り雨はすっかり上がって雲の切れ間から日差しも差し込んでいた。

そうしてしばらく経った後、桂とエリザベスは席を立った。会計を済ませて帰ろうとする桂を呼び止めて意を決して口を開いた時、外からぱっと光が差し込んで二人同時にそちらへ目を向けた。


「…わぁ!」


店の外に出てみれば空は綺麗に晴れ渡り、大きな虹がかかっている。水たまりに光が反射していつもの街中がキラキラと輝いて見えた。


「すごいおっきい虹ですね!こんなの初めて見ました!」

「俺もだ。見事なものだな」

「あの、桂さん」


隣に並ぶ桂を見上げて名前を呼ぶ。さらりと髪が揺れてその視線がこちらへ落ちてきてから、#name2#はにこりと笑って見せた。


「お誕生日、おめでとうございます」

「…!なぜそれを…」

「銀さんに聞いたんですよ。わざわざ教えにきてくれて。素敵なお友達ですね」

「あぁ、そうだな。良き友だと思っている」


銀時が友達なんかじゃない、ただの腐れ縁だとぶっきらぼうに言う顔を思い出して対照的なのだなと思ってつい笑ってしまう。”アイツ今日誕生日だから、#name2#ちゃんから祝ってやって”というのが銀時のお願いだった。友達でなければわざわざこんなお願いをしに来るはずがないのに。

きっと正反対で、それでもお互いを認めているからこそ合うものがあるのだろう。本当に嬉しそうにするものだから、言うか迷っていた言葉も伝えてみようともう一度桂の名前を呼んだ。


「これからも、…わたしに、会いに来てくださいね」

「もちろんだ」


迷うことなくそう答えた桂さんの微笑む顔が眩しくて、わたしは逃げるように店内へ戻った。ばくばくとうるさい心臓を落ち着かせるように深く息を吸い込んだ。


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