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「いらっしゃいませ~…あ、銀さん。お久しぶりですね」

「よォ#name2#ちゃん、元気そうじゃねェか。あ、あんみつクリームパフェ一つ」

「はぁい。クリーム増し増しでね?」

「さっすがわかってらっしゃる」


顔を合わせて笑ってからわたしは持っていたお盆を小脇に抱えて厨房へ向かった。

ここは歌舞伎町にある喫茶店。人気メニューはあんみつクリームパフェ。バイトとして働き始めてからもう1年くらいになるだろうか。従業員は仲がいいしお客様とも気さくに話せるし心地よいこの職場を気に入っていた。

店長にバレないようにこっそりクリームを多めに盛ったパフェを銀さんのテーブルに運ぶ。銀さんはお店の常連でいつもパフェを頼んでは美味しそうに食べてくれるのだ。万事屋さんの従業員の神楽ちゃんとお友達になれたのも銀さんのおかげだし、とお礼の意味で多めに盛って以来喜んでくれるからと毎回サービスをしてしまっていた。


「お待たせしました。あんみつクリームパフェ銀さんスペシャルです」

「今日も気前がいいね#name2#ちゃん。いや#name2#様」

「店長には内緒ですよ」


悪戯っぽく言えば銀時はバレねェように食っちまわないとな~とスプーンで大量のクリームを流し込んでいく。

そのとき、店の入り口が開く音がしたので顔をあげれば、涼しい顔をした長髪の男が入ってきた。


「いらっしゃいま……はぁ」

「#name2#殿。俺の許嫁は今日も美しいな…………ん?銀時ではないか」

「ヅラじゃねーか」

「ヅラじゃない、桂だ」


お客さんの顔を見てため息なんて失礼極まりないけれど、彼に限っては許してほしい。毎日のように現れては気安く話しかけてきてやれ美しいだの可愛らしいだの口にされては鬱陶しくもなる。いつも一人か、謎の白い生き物を連れてくる桂は銀時の向かいに腰掛けた。2人が知り合いだとは知らなかったけれど銀時が相席を拒否しないようなので気にしないことにした。


「え、てかお前今なんつった?」

「桂だ」

「その前だよ!#name2#ちゃんとどーいう関係なわけ?」

「あぁ、俺と#name2#殿は夫婦になるのだ」

「なりません!銀さん、勘違いしないでくださいね、別になんでもなくて付き合ってすらいないですから」


当たり前のように真顔で答えた桂さんに慌てて訂正すると可哀想な目で見られた。そんな目で見ないでください。可哀想なのは桂さんの頭です。


「でもヅラァ、お前ひとづ「ヅラじゃない、桂だ!」うん、だからひと「何だ、よく聞こえないぞ!銀時!」


わいわいと大きな声で楽しそうに話し始めたと思えば、銀さんは押し黙ってから#name2#ちゃんが待ってるから早く注文しろ、と溜息を零しながら再びパフェを口に運び始めた。桂さんがあんなに声を張り上げるのを初めて見た気がする。仲がいいんだなぁ。ご注文はお決まりですか、と声をかければ桂さんはこちらを見上げて迷わずに口を開いた。


「あぁ、そうだな。では俺は蕎麦を」

「すみません、うちお蕎麦はないんです」

「む、そうだったな。…ん?銀時、またお前はそのようなものを…武士たる者、軟弱なものを食していては…」

「あーあーうっせーなぁ、これは#name2#ちゃんが俺のために用意してくれた銀時スペシャルなの」

「なんだと?#name2#殿、俺にも同じものを、いや小太郎スペシャルをくれ」

「武士たるものパフェは食わねェんじゃねーのかよ!」

「はぁ、そのようなものメニューにはないので困ります」


銀時には用意出来て自分には出来ないのかとギャアギャア文句を言う桂を落ち着かせてようやく注文を取る。あんみつクリームパフェ小豆増し増しで決まったらしい。別にこれは単なる小豆トッピング付きのパフェであって小太郎スペシャルなどではない。決して。だからトッピング料も取る。普通に。

桂小太郎。攘夷派党首として知られた彼がここに来るきっかけはわたしが作ってしまった。

今の所危害を加えてくる様子はないし本当にただ付き纏われるだけ。お店以外では会うこともないし別にいいのだけど。

あの日以来ほぼ毎日のようにここに現れるのだけれど、なぜか店長はじめ他の従業員たちは彼があの桂小太郎とは気付いていない。なぜ。そしてわたしのシフトが入ってない日は現れないらしい。なぜ。

パフェにたっぷりのあんこを盛りながら店内の2人を眺める。なにやら楽しそうに話をしている二人は確かに同年代っぽいし、友達だったんだなぁとぼんやり思いながら桂に出会ってしまったあの日のことを思い出した。




****




「…すっかり遅くなっちゃった」


その日わたしはお店の締めを担当していた。喫茶店なのであまり遅くまで営業しているわけではないのだけれど、その日は人手不足と混雑、それから棚卸まで重なってしまって家に着くのは日付が変わる頃だった。

一人暮らしのアパート、決して高い部屋ではないけれど小綺麗な外観の我が家に近付くとツンと鉄の匂いが鼻をくすぐった。

最近物騒なニュースも多いし怖いなぁと思いながら建物内に入ると、壁に背を預けて座り込む人影が見えてわたしはビクッと思い切り飛び上がった。


「うわァッ!!!!!………え、なに…?えぇ、死んでるの…?!」


綺麗な長い黒髪だが纏っている服装と体格的に男だろうか。もう死んでしまっているのではないかと思ったのは、髪の隙間から覗く顔がずいぶん青いことと漂う血の匂いがその人から発せられているとわかったから。

こんなところで死なれては困る。だいたい、わたしは仕事で疲れて帰ってきて今からシャワーを浴びて冷蔵庫で冷やしてあるビールを一気飲みするのだと決めていたのに。


「……あの~…生きてます?…死んでますか?」


あのーとかおーいとか住民に迷惑にならない程度に声をかけても反応しない。やっぱり死んでる。これは警察を呼ぶしかないかと携帯電話を手に取ったとき、小さな声が聞こえた。


「……つは、……めてくれ」

「えっ?何?い、生きてた?」

「…警察は、やめてくれ」


閉じられていた目がこちらを見ていた。はっきりと警察を拒否した彼が何者か、なんとなく察しがついてしまったがこう言われてしまったら仕方がない。一般人には攘夷浪士(仮)に逆らうなんて出来っこないです。

逆らうことが出来なくとも、関わることもしたくない。そう思っても傷ついた人をこのままにしておくわけにもいかないし、このあとわたし以外の人が見つけたら警察呼んじゃうかもしれないし、その前に本当に死んでしまうかも。

再び目を閉じて体を休める彼の目の前に蹲み込んで目線を合わせた。


「動けますか?」


あの日、変な拾いものをしなければわたしの日常は平和なままだったのかもしれない。


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