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翌日

変わらない朝がやってきた。ここ数日で見慣れた、土方のいない部屋。やはり#name2#には何も告げずに早くから屯所を出て行ったのだ。#name2#は何をしているのか山崎に聞いてしまったが、あえて追求せずに知らないふりをして見送った。

#name2#の心中がもやもやしていようと、総悟の姉が病気で入院していようと、真撰組の公務は溜まってくる。しかも、土方のいない分まで補佐である#name2#に回ってくるのだから当然だ。暮れまでに終わらせて、土方にあたりちらしてやる、そう決めた#name2#は黙々と書類に向かっていた。


「#name2#ちゃん!!」


夕刻。あらかたの仕事を片付けたと思ったら、近藤の焦った声が#name2#の耳に届いた。


「ミツバ殿が…!」

「…え…?」


ミツバの容体が急変したと、一刻を争う事態だと。近藤の口がそう告げた。

パトカーに飛び乗って来たのは大江戸病院。降りると共に走って緊急治療室へ向かう。ここにいるのは近藤、沖田、#name2#の三人だけだ。

ガラスの中を覗き込むと、数人の医療関係者、真ん中のベッドに横たわるミツバ。青白い顔で荒い息をする彼女を見た総悟は驚いたような、泣き出しそうな表情を浮かべた。


しんとする廊下。先にそこにいた銀時によると、ナースコールをしたのは彼らしい。それだけ聞くと、誰も何も喋らなくなった。

すっかり外は暗くなり、慌ただしく動き回っていた医者や看護師も姿を消した。ミツバも大分落ち着いたようで、今はたくさんの機器を繋がれながらも、静かに眠っている。

銀時だけはいびきをかきながら眠っていたが、他の三人は静かに夜明けを待っていた。


「総悟、いい加減お前も休め。昨日から一睡もしてねェじゃねぇか。俺と交代!…寝てきたから、俺」

「…隈」

「メイクだ、これは」


重苦しい空気を銀時のいびきが少しだけ和ませていた。


「トシと派手にやりあったらしいな。珍しいじゃねぇか、お前が負けるなんて」

「…今は…、野郎の話はやめて下せェ」

「詳しくは教えてくれなかったがな、言ってたぞ?今のお前にゃ負ける気はせんと…」

「やめろって言ってるんでィ!!……なんだって…、どいつもこいつも、二言目にはトシ、トシって…。#name2#だって…。肝心の野郎はどうしたよ?姉上がこんなだってのに、姿も見せねェ。昔振った女が死のうと知ったこっちゃねェってかい」


その言葉は#name2#に衝撃を与えた。どれだけ沖田が土方を嫌っているかわかっていたつもりだったが、それは想像以上で。それ以上聞いていたくなくて。#name2#はそっとその場をあとにした。


飲み物でも買って戻ろうと自販機に向かっていると、前からアフロが走ってきた。


「…#name2#ちゃん!!」

「ザキさん?どうしたんですか?ていうかなんでアフロ?」


すごい形相でいる山崎をとりあえず落ち着かせてから話を聞く。


「ふ、副長が、大変なんだ!!」


#name2#の顔から血の気が引いた。忘れてなんかいない、今夜は土方が貿易浪士の拠点に乗り込む日じゃないか。近藤からも何も聞いていないということは、結局彼は誰にも頼らず一人だけで行ったのだ。…、ミツバのために。


「ザキさん、このことを近藤さんに伝えてください。もし応援に来ると言ってら、殴ってでも止めてくださいね!絶対ミツバさんの傍にいなきゃだめだから。頼みましたよ!!」

「でも、#name2#ちゃん一人で行かせられないよ!」

「わたしは副長補佐よ?だから、わたしが一番に行かないといけないの」


それだけ言うと、#name2#は駆け出した。病院の外へ出るとパトカーに乗り、港に向けて急発進する。どうか、間に合えと祈りながら。




****




真夜中にも関わらず、たくさんの人間が倉庫へ荷物を運びこむ。転海屋、武器の密輸にかかわる組織だ。そしてその頂点に立つのが蔵場当馬。上から部下たちが働くのを見ていると、首筋に冷たいものが当たった。


「転海屋、蔵場当馬だな。御用改めである、神妙にしてもらおうか」

「あなたはいつぞやの…」

「武器密輸および不逞浪士との違法取引の容疑でお前を逮捕する。神妙にお縄につけ」


土方の低い声が蔵場を追い詰める。背後を取られ、変わらず首筋に刀をあてられた状態にもかかわらず、蔵場は余裕の表情を見せた。


「ははっ、友人の婚約者をためらいなく捕まえますか。なかなか太い神経をお持ちのようで」

「犯罪に手ェ染めながら真撰組の縁者に手ェ出すたァ…、テメェも太い野郎じゃねェか」


その瞬間、土方に無数の刀が向けられた。




****




#name2#はサイレンをどでかい音で鳴らしながら車道を突っ走っていた。お世辞にも上手いとはいえない運転だが、事故が起きないのは夜中だからだろう。


「…煙が上がってる…!すでに始まってるのね!」


更に加速すると、#name2#は密輸場所へ急いだ。




****




深手を負った土方はなんとか敵を撒いて、倉庫に背を預けて座り込んだ。気配を感じて目線をあげると、自分の周りを半周囲うように浪士たちが刀を向けていた。


「残念です…。ミツバも悲しむでしょう。古い友人をなくすことになるとは。あなたたちとは仲良くやっていきたかったのですよ。真撰組の後ろ盾が得られれば、自由に商いが出来るというもの。そのために縁者に近付き、縁談まで設けたというのに。まさかあのような病持ちとは」

「端から俺達を抱き込むためだけにアイツを利用するつもりだったのかよ」

「愛していましたよ?商人は利を生むものを愛でるものです」


懐からタバコを取り出して火をつける。一息ついてから、土方は自分を嘲笑うかのように言った。


「外道とは言わねェよ。俺も似たようなもんだ。酷ェこと腐るほどやってきた。あげく死にかけてるときにその旦那たたっ斬ろうってんだ、酷ェ話だ…」


撃たれた足をかばいながらも刀を支えに立ちあがる。


「俺はただ…、一度でも惚れた女にゃ幸せになってほしいだけだ。アイツと俺は不釣り合いすぎた。もっとアイツに合った男と、普通の幸せ掴んでほしい。ただ、それだけだ」

「なるほど…、やはりお侍さんの考えることは私たち下郎には図りかねませんな。……撃てェ!!」


「待ったァァァァァ!!!」


蔵場の指示のもと、銃や刀を構えた浪士たちは突然響いた高めの声にひるんだ。それと同時に土方の後の倉庫の上から黒い影が降りてきた。


「…#name2#…、お前、どうして…」

「わたしはあなたの補佐ですよ?忘れたんですか?」


背後の殺気とは似つかわない笑顔で言う#name2#。そして蔵場に向かって叫ぶ。


「ウチの副長を殺ろうってんなら、まずは副長補佐、#name1##name2#が相手よ!!」


圧力に押された浪士たち、しかし蔵場は冷静だった。


「たかが娘一人増えただけです。さっさとやってしまいなさい!」


今一度武器を構えると、標的を#name2#と土方にして一気に攻撃態勢に入った。が、浪士によるものではない爆煙がのぼる。


「な、なんだ!?」

「行けェェェ!!」


近藤を筆頭に斬りこんできたのは真撰組。数で優勢だった転海屋は一気に押される。


「土方さん、行ってください。今日は、敵の大将しとめるのはあなたの役目ですよ」


蔵場がこっそりと姿を消したのを確認すると#name2#は土方に言った。土方は何も言わずに裏道を駆け出した。


「さーて、わたしもひと暴れしますかッ!」


短いスカートを翻しながら#name2#は刀と共に舞った。後には真紅の血が散った。




****




真撰組のほぼ全隊が駆けつけたおかげで事態はすぐに収拾に向かった。蔵場は沖田が車を文字通り一刀両断し爆破したために死亡が確認された。近藤はすぐに配置を言い渡し、明け方までの撤収を言い渡した。そしてミツバの待つ病院へと戻った。


機器を外されたミツバは、最期のときを弟と過ごした。部屋の外には隊長格の人間が医師にこれが最期であることを告げられていた。


「姉上…、ごめんなさい…。俺ァ、ろくでもねェ弟だ。結局…姉上の幸せを奪ってきたのは、俺…。ごめんなさい…ごめん…」

「…総ちゃん…、いいの…。よく、頑張ったわね…。立派に、立派になった。…本当に、強くなった」

「姉上…。強く、なんかねェ。僕は…俺は…」

「振り返っちゃ、ダメ。決めたんでしょう?…自分であのとき。自分で選んだ道でしょう…。だったら…、謝ったりしたら、ダメ。泣いたりしたら、ダメ。脇見もしないで、前だけ見てるあなたたちの背中を見てるのが好きだった…」


頬をなでるミツバの手が、力をなくしていく。このわずかな温もりはあと少しで消えてしまう。姉の死を悟った沖田は、涙をこらえるのに必死だ。


「ぶっきらぼうで、ふてぶてしくて、不器用で…。でも優しいあなたたちが、大好きだった…。だから…私…、とっても、幸せだった…。あなたたちのような、素敵な人たちと出会えて…。あなたみたいな…、素敵な、弟を持てて…。総ちゃん…あなたは…、わたしの…、自慢の、弟…」


ついに、ミツバの手は重力に従ってするりと落ちた。最後の温もりを感じたくて、沖田は姉の手を握る。堪え切れなくなった涙が頬を伝う。もうどれだけ泣いても、姉は何も言ってくれないのだ。ミツバの最期の言葉を胸に刻んで、お別れをした。




****




雨の上がった病院の屋上では、朝焼けを見つめながらせんべいを食べる土方がいた。


「…辛ェッ…、辛ェよこれ…。何だこれチクショウ…。…辛すぎて涙出てきやがった…。辛ェ…」


「…銀ちゃん…、わたしにも、せんべいちょーだい」

「ん、ほらよ」


屋上の物陰でしゃがみこむのは銀時と#name2#。#name2#もバリバリとせんべいをほおばると、我慢していた涙があふれ出した。


「…辛すぎ…。何、コレ…、辛いよ…。うっ…」

「お前は我慢しすぎだ」


泣き声を殺すようにする#name2#の背中をそっと抱きよせ、自分の胸に押し当てる。土方はあの様子だし、アイツもいない今は銀さんの出番でしょうと勝手に決め付けて。


(あとで土方くんは銀時兄さんのお説教だな)


わずかなしゃくり声をあげる妹分を見つめながら銀時は思った。こいつは望む野郎と、幸せになってほしいと。


「ってぇ、お前鼻水はつけるなよ!?」

「じらないよー、ぎんぢゃんが勝手におしつけだんでじょ」


色気のかけらもないのでやっぱり暫くは無理だと思いました。




(あれ、作文?)


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