コン・テネレッツァ10
魔導船から遠ざかる真月を眺め、美しい光に手を伸ばした。わたしたちの故郷の星へ誰ひとり欠けることなく帰ることができる。その実感が募っていた不安を一気に吹き飛ばしていく。
意識を取り戻したセシルはローザ、セオドアと家族水入らず。エッジとリディアは久しぶりに再会したカインを囲んでいてパロムの周りにはやたら女の子たちが集まっている。人の輪は昔と少しずつ形を変えてわたしたちを結んでいる。
あの人が自ら輪に入ろうとしないのはわかりきっていたことだけれど。
「またこうして会えるなんて思っていなかったわ」
無事でよかった。1人でひっそりと佇むゴルベーザにそう声を掛けると伏せられていた青い瞳がこちらを捉えた。無事、というのはこれまでの月での眠りのことも、セオドアくんたちと一緒にセシルを救って来てくれたことも。
「#name1#か……本当に久しぶりだ」
「ええ、本当に。そうだわ、少し手を貸して?」
頭の上に疑問符を浮かべながらも差し出してくれた手を取り、魔力を集中させる。彼の全身を包み込む光で傷を癒やしてみせ、闘いの最中負った小さな傷は跡形もなく消え失せた。
「それなりに成長したと思うの」
「あぁ……。よく頑張ったな、私には到底出来ないことだ」
鎧越しでない腕は温かい。彼もあの時のことを覚えているようで良かった。ゴルベーザが月へ向かう前に、拙いケアルで見送ったときのことを。
「悔しいけれど、魔法の威力はあなたの方がずっと上だわ」
「単に私に流れる血だ」
「そうね……でも、それだけじゃない」
触れていた手を離し、真っ直ぐその目を捕らえる。目が合うと彼は逃げるように視線を窓の外に移した。宇宙には星になれなかった屑が無数に浮いている。
「どんな天才も努力がなければ超えられない一線がある。ゾットの塔にあった魔導書はあなたのものでしょう」
擦り切れた本は何よりの努力の証。同じ魔道士だからこそ、それがどれだけ大変なことなのかわたしにはわかる。
昔の話だ、と言い放って彼もこちらを見る。その目は何かを諦めたことを物語っていた。
「白魔法だけは、どうしても出来なかった」
「あなたにも苦手な魔法があるのね」
そんなの当たり前のことなのに。そう笑って隣に立つ。青き星は少しずつ近づいているけれど、宇宙の旅はまだ時間がかかりそうだ。
「…#name1#」
名を呼ばれてその顔を見上げる。険しい顔で何かを言い掛けたゴルベーザは一瞬ふらつき、壁に手を伸ばすと同時にわたしも彼に両手を伸ばした。
「大丈夫…?!」
「……あぁ……問題ない」
「でも、顔色が悪いわ…」
少し休めば治ると、額を抑えて壁に背を預けた。その姿は放っておいて欲しいと言っているけれど、たとえ拒まれてもそういうわけにはいかない。
「魔力が足りないのなら……補充、する?」
俯くゴルベーザを覗き込み、自分の唇を指でなぞってそう尋ねる。
「……?…な、なにを馬鹿なことを……!」
「…ふふ、あはは!冗談よ」
荷袋から小瓶を取り出して差し出した。少量のエーテルでは雀の涙かもしれないけれど。迷う指先に押し付けて強引に握らせるとゴルベーザは困った顔を隠そうとしないまま遠慮がちにこちらを見る。そこに浮かぶ戸惑いにまだ彼が自分自身を許せていないことを悟る。
「#name1#…すまなかった」
「ずっと前にも聞いたわ。それに、謝らないでって言ったでしょう?」
あなたは悪くないのだと言っても素直に受け入れるとは思えないから、時間かけて少しでも罪悪感を軽くして欲しいと思う。
「ねぇ、バロンに来ない?」
「私が…か?」
「そう。人には得手不得手があるから、あなたの得意なことでわたしたちを助けて欲しいの」
月に帰って再び眠りにつくことが彼の望みなら無理に引き留めるつもりはない。けれど、家族と呼べる人と共に過ごすことだってできるのだから。
叔父さんって呼ばれるのも悪くないでしょ?遠くで両親と共に笑うセオドアくんを眺めた。
「……あの子はきっと、幼い頃のセシルによく似ているのだろう」
「……」
「それを守ってやることもできなかった私に、今更……」
「だったら尚更じゃない」
ゴルベーザは口を閉ざし、その表情からは前向きに捉えてくれているかわからない。セオドアくんがわたしたちに気付き、こちらへ駆けてくる。
遠慮がちに掛けられた声に向けるその眼差しに、あとは彼の選択を信じようと思えた。
意識を取り戻したセシルはローザ、セオドアと家族水入らず。エッジとリディアは久しぶりに再会したカインを囲んでいてパロムの周りにはやたら女の子たちが集まっている。人の輪は昔と少しずつ形を変えてわたしたちを結んでいる。
あの人が自ら輪に入ろうとしないのはわかりきっていたことだけれど。
「またこうして会えるなんて思っていなかったわ」
無事でよかった。1人でひっそりと佇むゴルベーザにそう声を掛けると伏せられていた青い瞳がこちらを捉えた。無事、というのはこれまでの月での眠りのことも、セオドアくんたちと一緒にセシルを救って来てくれたことも。
「#name1#か……本当に久しぶりだ」
「ええ、本当に。そうだわ、少し手を貸して?」
頭の上に疑問符を浮かべながらも差し出してくれた手を取り、魔力を集中させる。彼の全身を包み込む光で傷を癒やしてみせ、闘いの最中負った小さな傷は跡形もなく消え失せた。
「それなりに成長したと思うの」
「あぁ……。よく頑張ったな、私には到底出来ないことだ」
鎧越しでない腕は温かい。彼もあの時のことを覚えているようで良かった。ゴルベーザが月へ向かう前に、拙いケアルで見送ったときのことを。
「悔しいけれど、魔法の威力はあなたの方がずっと上だわ」
「単に私に流れる血だ」
「そうね……でも、それだけじゃない」
触れていた手を離し、真っ直ぐその目を捕らえる。目が合うと彼は逃げるように視線を窓の外に移した。宇宙には星になれなかった屑が無数に浮いている。
「どんな天才も努力がなければ超えられない一線がある。ゾットの塔にあった魔導書はあなたのものでしょう」
擦り切れた本は何よりの努力の証。同じ魔道士だからこそ、それがどれだけ大変なことなのかわたしにはわかる。
昔の話だ、と言い放って彼もこちらを見る。その目は何かを諦めたことを物語っていた。
「白魔法だけは、どうしても出来なかった」
「あなたにも苦手な魔法があるのね」
そんなの当たり前のことなのに。そう笑って隣に立つ。青き星は少しずつ近づいているけれど、宇宙の旅はまだ時間がかかりそうだ。
「…#name1#」
名を呼ばれてその顔を見上げる。険しい顔で何かを言い掛けたゴルベーザは一瞬ふらつき、壁に手を伸ばすと同時にわたしも彼に両手を伸ばした。
「大丈夫…?!」
「……あぁ……問題ない」
「でも、顔色が悪いわ…」
少し休めば治ると、額を抑えて壁に背を預けた。その姿は放っておいて欲しいと言っているけれど、たとえ拒まれてもそういうわけにはいかない。
「魔力が足りないのなら……補充、する?」
俯くゴルベーザを覗き込み、自分の唇を指でなぞってそう尋ねる。
「……?…な、なにを馬鹿なことを……!」
「…ふふ、あはは!冗談よ」
荷袋から小瓶を取り出して差し出した。少量のエーテルでは雀の涙かもしれないけれど。迷う指先に押し付けて強引に握らせるとゴルベーザは困った顔を隠そうとしないまま遠慮がちにこちらを見る。そこに浮かぶ戸惑いにまだ彼が自分自身を許せていないことを悟る。
「#name1#…すまなかった」
「ずっと前にも聞いたわ。それに、謝らないでって言ったでしょう?」
あなたは悪くないのだと言っても素直に受け入れるとは思えないから、時間かけて少しでも罪悪感を軽くして欲しいと思う。
「ねぇ、バロンに来ない?」
「私が…か?」
「そう。人には得手不得手があるから、あなたの得意なことでわたしたちを助けて欲しいの」
月に帰って再び眠りにつくことが彼の望みなら無理に引き留めるつもりはない。けれど、家族と呼べる人と共に過ごすことだってできるのだから。
叔父さんって呼ばれるのも悪くないでしょ?遠くで両親と共に笑うセオドアくんを眺めた。
「……あの子はきっと、幼い頃のセシルによく似ているのだろう」
「……」
「それを守ってやることもできなかった私に、今更……」
「だったら尚更じゃない」
ゴルベーザは口を閉ざし、その表情からは前向きに捉えてくれているかわからない。セオドアくんがわたしたちに気付き、こちらへ駆けてくる。
遠慮がちに掛けられた声に向けるその眼差しに、あとは彼の選択を信じようと思えた。