コン・テネレッツァ02
ミシディア大陸に到着し、できる限り人が通る道は魔物が寄り付かないようにと退治をしながら魔道士達の村を目指して歩いた。同船していた旅商人からお礼にと貰ったアイテムで体力や魔力を回復して半日ほど。流石に徒歩ではなかなか距離があったがようやく目的地へ辿り着く。
すぐにでも宿を取って休みたい。まだ夕方というにも早い時間だけど、エブラーナを出てからというものの立て続けに魔法を使い続けた上に早朝から歩き通しでは流石に疲れてしまう。今日はもう宿から一歩たりとも出ないと固く心に決めたはずだったのに、道具屋から出てきた少年と目が合った瞬間に疲れや眠気など全部忘れて吹き飛んでしまった。
「セオドアくん?!」
そこにいたのは大好きな親友たちの愛する息子、セオドアくん。前に会った時よりも随分背が伸びて凛々しい顔立ちになった。まだ幼さが残るけれど、纏った鎧も相まって立派な騎士に成長していた。久しぶりの再会に喜びを隠しきれずに駆け寄る。
「あれ、ここにいるってことはもう任務に出てるの?」
「…ぼくは…」
「…何かあったの…?」
伏せられた瞳に嫌な予感がした。そして続いた赤い翼は魔物に襲撃され、自分1人を残し全員殉職してしまったのだと、その幼い口から発せられるにはあまりにも重い言葉に息を呑んだ。騎士の試練を終え正式に念願だった赤い翼の隊員として認められたその帰りに悲劇は起こった。
「ここまでずっと1人で?」
「いえ、助けてくれた方がいて」
1人では到底無理でしたと肩を落とすセオドアくんが道具屋の入口を振り返ると背の高い男が出てくるところだった。今まさに買ってきたのであろう道具が入った袋を持ち旅装束に身を包んだ男が顔を上げる。
「…………!」
「こちらの方です!」
「……そ、そうだったんだ!……えっ…と、」
ばっちり目が合った目の前の男はどう見ても、何度瞬きをしても目を擦っても、カインだ。
こちらを見たまま口を閉ざしている様子に何と声をかけたらいいのかわからず、見つめ返すことしかできない。会いたかったはずだけれど、こんなに突然の再会が待ってるなんて聞いてない。
「#name1#さん、どうかしましたか?」
「…えっ、あ、いや、その…」
流石にしばらく会っていないとはいえ人違いではないと思う。彼もわたしを見た瞬間、少し驚いたように目を開いたから。セオドアくんは知っているのだろうか、彼がセシルの親友で…
「あの…、カ」
「おいセオドア」
カインだよね?と問おうとしたわたしの言葉を遮ってセオドアくんを呼ぶ声は昔と変わらず。手に持っていた荷物を預けると先に宿へ戻っているように伝えている。セオドアくんは元気よく返事をした後、ちらりとわたしへ目を向けた。セオドアくんとも話がしたいけれど、でも。どうしようかと迷っていたらもう一度カインが口を開いた。
「……魔道士と見受ける。魔石を選んでくれるか」
買い忘れたのだと付け足してすぐ後ろの道具屋を指差したカインに何も言わずに頷いた。まるで見ず知らずの人に言うような言葉に違和感はあれど、きっと何か理由があるはず。同意を確認してすぐ店に戻っていったカインからセオドアくんへと目を向けた。
「ごめんね、あとでわたしも宿へ行くわ。その時に話しましょう?」
「#name1#さん…はい!」
セオドアくんの背中を見送ってすぐ、隣に立つ気配に小さく息を吐く。
「……それで、魔石を買うんじゃなかったの?」
そうでないことくらいわかっていたけれど、素直に話を聞き入れてくれたセオドアくんに感謝しなくては。そんな風に真っ直ぐなところはきっと父親譲りで微笑ましく思える。
返事をすることなく宿とは反対へと歩き出したカインを追いかける。竜騎士の鎧を纏っていないカインの背中は、最後に見たときよりもずっと頼りなく見えた。
「ねぇ、カイ…」
「#name1#」
振り返ったカインの青い瞳がわたしを捉えた。下ろしたままの髪が揺れて緩いウェーブが跳ねる。
「その名は呼ばないでくれ。もう……捨てたんだ」
「事情くらいは話してくれるのかしら」
またもや口を噤むカインの意志の固さに気を取り直して別の質問を投げかける。どうしてセオドアくんと共にいたのか、どこへ向かっているのか。それに対しては出会ったのは偶然で目的地が同じだったためだとすんなり答えが出てくる。2人はわたしと同じくバロンへと向かっているようだった。
「ねぇ、名を捨てたってことは、セオドアくんにも名乗ってないんだよね?」
「あぁ…。お前はあいつと知り合いだったんだな」
若くして赤い翼に入るだけある、と笑っていた。セオドアくんのことを優秀な新入りの赤い翼隊員としか思っていなさそうで、1番重要なところは知らないらしい。王子だということ、両親がセシルとローザだってこと。
「わたしも一緒に行くわ。バロンに帰るところだったの」
「あぁ、お前がいてくれると心強いな」
街並みから外れて人気のないところで歩みを止めた。これ以上進んでは魔物に襲われかねない。風がカインの髪を乱し、抑えた手首には見覚えのあるリボンが靡く。髪を結うのをやめたからか、それでも身につけてくれているのに安心した。名を捨てても、きっと今までの思い出を全部捨てたわけじゃない。
「お前が無事でよかった」
「それはこっちの台詞だよ。本当に、会えて良かった…」
昔のわたしなら泣いてしまいそうだな。カインもそう思ったような気がする。優しく細められる目にわたしもにこりと笑って見せる。
「セオドアを頼んだ」
「…あなたも一緒に行くのよ」
「そうだな。…バロンに用があると言ったが……正しくはある男を追っている」
カインの目つきが変わる。瞳の奥に灯った炎に背筋が凍ったように身体が強張る。
「奴を見つけて……必ず、殺す」
握りしめた掌、携えた剣。何よりも誇りだった槍を置き、殺したいと思うほどの相手とは。
この十数年の間にカインの身に何があったのかわからない。会えたら伝えたいことがあったのだと頭の中に思い浮かんだけれど言葉にするのはやめた。今すぐじゃなくても、話を聞いてほしいって約束を交わすくらいは出来たかもしれないけれど。
きっと、それは断られてしまうから。カインは果たせない約束はしない。その男と刺し違える覚悟で追っている。
「……暗くなってきたし、そろそろ戻ろう?セオドアくんが待ってるわ」
いつかきっと平和が戻って、ちゃんと話せる日が来るように。それまで彼が無事にいられるように。ここで会えたのは偶然なんかじゃない。また一緒に4人で笑える日が来るまで彼の側に居続けよう。
すぐにでも宿を取って休みたい。まだ夕方というにも早い時間だけど、エブラーナを出てからというものの立て続けに魔法を使い続けた上に早朝から歩き通しでは流石に疲れてしまう。今日はもう宿から一歩たりとも出ないと固く心に決めたはずだったのに、道具屋から出てきた少年と目が合った瞬間に疲れや眠気など全部忘れて吹き飛んでしまった。
「セオドアくん?!」
そこにいたのは大好きな親友たちの愛する息子、セオドアくん。前に会った時よりも随分背が伸びて凛々しい顔立ちになった。まだ幼さが残るけれど、纏った鎧も相まって立派な騎士に成長していた。久しぶりの再会に喜びを隠しきれずに駆け寄る。
「あれ、ここにいるってことはもう任務に出てるの?」
「…ぼくは…」
「…何かあったの…?」
伏せられた瞳に嫌な予感がした。そして続いた赤い翼は魔物に襲撃され、自分1人を残し全員殉職してしまったのだと、その幼い口から発せられるにはあまりにも重い言葉に息を呑んだ。騎士の試練を終え正式に念願だった赤い翼の隊員として認められたその帰りに悲劇は起こった。
「ここまでずっと1人で?」
「いえ、助けてくれた方がいて」
1人では到底無理でしたと肩を落とすセオドアくんが道具屋の入口を振り返ると背の高い男が出てくるところだった。今まさに買ってきたのであろう道具が入った袋を持ち旅装束に身を包んだ男が顔を上げる。
「…………!」
「こちらの方です!」
「……そ、そうだったんだ!……えっ…と、」
ばっちり目が合った目の前の男はどう見ても、何度瞬きをしても目を擦っても、カインだ。
こちらを見たまま口を閉ざしている様子に何と声をかけたらいいのかわからず、見つめ返すことしかできない。会いたかったはずだけれど、こんなに突然の再会が待ってるなんて聞いてない。
「#name1#さん、どうかしましたか?」
「…えっ、あ、いや、その…」
流石にしばらく会っていないとはいえ人違いではないと思う。彼もわたしを見た瞬間、少し驚いたように目を開いたから。セオドアくんは知っているのだろうか、彼がセシルの親友で…
「あの…、カ」
「おいセオドア」
カインだよね?と問おうとしたわたしの言葉を遮ってセオドアくんを呼ぶ声は昔と変わらず。手に持っていた荷物を預けると先に宿へ戻っているように伝えている。セオドアくんは元気よく返事をした後、ちらりとわたしへ目を向けた。セオドアくんとも話がしたいけれど、でも。どうしようかと迷っていたらもう一度カインが口を開いた。
「……魔道士と見受ける。魔石を選んでくれるか」
買い忘れたのだと付け足してすぐ後ろの道具屋を指差したカインに何も言わずに頷いた。まるで見ず知らずの人に言うような言葉に違和感はあれど、きっと何か理由があるはず。同意を確認してすぐ店に戻っていったカインからセオドアくんへと目を向けた。
「ごめんね、あとでわたしも宿へ行くわ。その時に話しましょう?」
「#name1#さん…はい!」
セオドアくんの背中を見送ってすぐ、隣に立つ気配に小さく息を吐く。
「……それで、魔石を買うんじゃなかったの?」
そうでないことくらいわかっていたけれど、素直に話を聞き入れてくれたセオドアくんに感謝しなくては。そんな風に真っ直ぐなところはきっと父親譲りで微笑ましく思える。
返事をすることなく宿とは反対へと歩き出したカインを追いかける。竜騎士の鎧を纏っていないカインの背中は、最後に見たときよりもずっと頼りなく見えた。
「ねぇ、カイ…」
「#name1#」
振り返ったカインの青い瞳がわたしを捉えた。下ろしたままの髪が揺れて緩いウェーブが跳ねる。
「その名は呼ばないでくれ。もう……捨てたんだ」
「事情くらいは話してくれるのかしら」
またもや口を噤むカインの意志の固さに気を取り直して別の質問を投げかける。どうしてセオドアくんと共にいたのか、どこへ向かっているのか。それに対しては出会ったのは偶然で目的地が同じだったためだとすんなり答えが出てくる。2人はわたしと同じくバロンへと向かっているようだった。
「ねぇ、名を捨てたってことは、セオドアくんにも名乗ってないんだよね?」
「あぁ…。お前はあいつと知り合いだったんだな」
若くして赤い翼に入るだけある、と笑っていた。セオドアくんのことを優秀な新入りの赤い翼隊員としか思っていなさそうで、1番重要なところは知らないらしい。王子だということ、両親がセシルとローザだってこと。
「わたしも一緒に行くわ。バロンに帰るところだったの」
「あぁ、お前がいてくれると心強いな」
街並みから外れて人気のないところで歩みを止めた。これ以上進んでは魔物に襲われかねない。風がカインの髪を乱し、抑えた手首には見覚えのあるリボンが靡く。髪を結うのをやめたからか、それでも身につけてくれているのに安心した。名を捨てても、きっと今までの思い出を全部捨てたわけじゃない。
「お前が無事でよかった」
「それはこっちの台詞だよ。本当に、会えて良かった…」
昔のわたしなら泣いてしまいそうだな。カインもそう思ったような気がする。優しく細められる目にわたしもにこりと笑って見せる。
「セオドアを頼んだ」
「…あなたも一緒に行くのよ」
「そうだな。…バロンに用があると言ったが……正しくはある男を追っている」
カインの目つきが変わる。瞳の奥に灯った炎に背筋が凍ったように身体が強張る。
「奴を見つけて……必ず、殺す」
握りしめた掌、携えた剣。何よりも誇りだった槍を置き、殺したいと思うほどの相手とは。
この十数年の間にカインの身に何があったのかわからない。会えたら伝えたいことがあったのだと頭の中に思い浮かんだけれど言葉にするのはやめた。今すぐじゃなくても、話を聞いてほしいって約束を交わすくらいは出来たかもしれないけれど。
きっと、それは断られてしまうから。カインは果たせない約束はしない。その男と刺し違える覚悟で追っている。
「……暗くなってきたし、そろそろ戻ろう?セオドアくんが待ってるわ」
いつかきっと平和が戻って、ちゃんと話せる日が来るように。それまで彼が無事にいられるように。ここで会えたのは偶然なんかじゃない。また一緒に4人で笑える日が来るまで彼の側に居続けよう。