コン・テネレッツァ01
親愛なるローザへ
元気にしているかしら?
手紙を出すのが遅くなってごめんなさい。わたしは今エブラーナにいるの。
エッジにお願いして忍術と魔法の関係について調べさせてもらっていたのだけど、とっても楽しくて気がついたら随分長居しちゃった。
最近魔物たちが活発化していると聞いたわ。そっちは大丈夫?
そろそろ一度バロンに戻ろうと思っているの。街の様子も心配だしね。
セオドアくんは騎士の試練を受ける頃かな?
あの子なら絶対に達成できるはずだわ。帰ったらお祝いしなくちゃね!
それじゃあセシルにもよろしくね。会えるのを楽しみにしているわ。
「これをバロン城までお願い。いい子ね、ありがとう」
手紙を預けた鳩が空高く飛び立っていくのを見上げてその先のバロンを思い浮かべた。わたしが故郷を出てからもう10年以上が経つ。色々な国、街を渡り歩いて魔法だけでなく多くを学びながら過ごしてきた。バロン軍黒魔道士団所属ながら、あれから白魔法も本格的に習得して、魔物に襲われた街では救護活動に徹することだってあった。
永い時が経ったけれど、こうして親友や家族に手紙を書くこともあれば帰って黒魔道士団の様子を見ることも、はたまた見知った顔が会いに来てくれることもあった。だから寂しいと思うこともなく、あっという間だった。
滞在して数ヶ月が過ぎようとしているエブラーナの更に地下へ続く階段をひたすらに降りていく。向かった先はエブラーナ城内の書庫。本来なら王族以外の人間、それも国外の者が立ち入れるような場所ではないのだけど、調子のいい国王 - エッジ - にダメ元でお願いすればお前なら構わないとすんなり通してもらい、暇さえあれば朝から夜まで没頭して書物を読み漁っていた。
古くからエブラーナに伝わる巻物と呼ばれる変わった形状の書物はわたしには読めない文字も多くあったのでその度にエッジに読み方を教えてもらっていたら彼もここに居座るようになった。居座るといっても、大半は家臣たちに執務に戻るように口うるさく言われたくないから隠れているだけだけど。
「今日も探されてるわよ、若様」
「わかってるって、匿ってくれよ」
「うーん、どうしようかしら」
「お前なぁ、特別に許可してるんだからよ!」
書庫に着くと既にエッジの姿があった。こんなやりとりももう何度目か。道すがら見かけた家臣たちは忙しなく走り回って彼を探しているというのに肝心の本人はこんなところで寛いでいる。これで民に慕われる国王なのだからやはり上に立つべきは人柄が何より大切なのだと、自国の優しい陛下を思い浮かべた。
「あ、そうだ。わたしそろそろバロンに帰るね」
「そうか、なんだもう少しゆっくりしていけばいいのに」
「もう十分お世話になったわ」
たくさん時間をかけたけれど、この膨大な巻物は半分も解読できていない。また遠くないうちにお邪魔して続きを読ませてもらうと心に決めて、帰る理由の近頃の魔物たちの活動について口にすればエッジも思うところがあったのか表情を曇らせる。
「ウチも警備を強化してるが、不安は尽きないもんだな」
「また遊びにくるわ。世界が平和ならいつだって来られるでしょう?」
確かに、と布で覆われた口元が笑っているのを見てわたしも顔を綻ばせた。外でエッジを探す声がこちらへ向いている気配はない。普段彼がこの城の色んなところで油を売っているからこそ宛がたくさんあって彼らも大変そうだ。その気配を探っていることに勘付いたエッジは打って変わって眉間に皺を寄せ難しい顔をする。
「…まだ戻らねーよ。別に執務が嫌なわけじゃねぇ、けど」
「んー…まぁ、戻りたくないのもわかるけれど」
日々口うるさく言われている姿を目にしているので確かにかわいそうにも思えてしまう。それは仕事のことではなく、お妃様を娶って欲しいと。その思いはエブラーナの未来のため当然のことだけれど、国王であろうが1人の人間。相手は誰だっていいわけじゃない。
「リディアとはどうなの?」
「それが何も変わらないから困っちまうんだ」
彼らと出会ってから長い時間が経ったけれどエッジの気持ちは揺るがずにいる。2人が上手くいけばいいと影ながら応援していても未だ進展を見せないままだった。
「エッジはすごいよね、自分の気持ちをまっすぐ伝えられてるもの」
「そうか?」
そういうお前はどうなんだよ。普段ならこういった自身の恋愛の話は適当に流すところだけど、近々エブラーナを出ると決めたからか。机の上に広げられた巻物よりもエッジとの会話を受け止めて昔のこと、彼がいなくなった日のことを思い返した。
「わたしは…、結局一度も言えなかったわ。随分会ってないし、もう2度と会えないかもしれないのに」
今になってたまに考えてしまう。想いを伝えたところで彼との関係が良い方向に変わったとは思えないけれど、それでも自分が前に進むことくらいはできたかもしれない。過ぎたことを悔やんでも仕方ないと思えど、幼い頃に自分とカインの想いに気付いたときから何も変わっていないことへの焦りは少なからず感じていた。
「…その相手って、」
「うん…」
「ゴルベーザか…?!」
「…え?!」
大きな声を上げ、立ち上がった拍子に椅子が倒れてエッジが慌ててわたしの口を塞いだ。馬鹿、静かにしろと言われてもそんなの無理だったし、そもそもエッジが悪い。突飛押しもなく放たれた言葉は案外適当だったわけでもなさそうでエッジも驚いた顔をしていた。
一つ深呼吸をして腰を下ろし、咳払いと共に気持ちを落ち着かせて極めて小さな声でエッジに問いかける。どうしてそうなるの。とんだ誤解も甚だしい。とはいえ、近しい人たちには自分の想い人を告げていたつもりでもエッジには話せていなかったのだとようやく気がついた。
「会えないとか言うから。今頃はお月さんだろ?」
「確かにそれはそうだけど、でも違うわ」
「じゃあ誰なんだよ」
「……カインだよ」
「……?」
目をパチクリと瞬かせて固まるエッジにそんなに驚かなくてもいいのに、と笑いが溢れる。子供の頃からずっと好きで、なんてびっくりするくらい純情で一途だと自分でも思うけど。
「そうじゃなくて、お前がカインを好きなのか?」
「そうだってば」
「…オレはてっきり逆だと思ってた」
今度はこっちが目を瞬かせて固まってしまった。そんなことあるわけないのに。カインが好きなのはわたしじゃないのに、どこをどう取ればそう思うのだろう。エッジは結構疎いところがあるのかもしれない。
「オレがお前らと出会ったとき、ゴルベーザのところにいた#name1#のことを誰よりも気にかけてたのはカインだった」
だからカインにとってそれだけ大事な奴なんだと思ってた。わたしは瞼を伏せて首を横に振った。オレ様の勘は結構当たるのだと自信満々に言われても、わたしはもうその答えを知ってしまっている。
「大事には思ってくれてると思うよ。幼馴染だから、ね」
「いいや、あれは違うな。野郎同士わかっちゃうもんだぜ!」
「カインのことならわたしの方がよく知ってるに決まってるでしょ!」
「どうだかな」
「第一、カインとエッジを一緒にしないで!」
「なんだとてめー!!」
ついムキになって言い合っていたところにガチャリと扉の音がした。夢中になっていたせいで気配に気付くこともなく、もっとも彼らは忍びだから気配を殺すことなんて容易いのだろうけれど、とにかくわたしとエッジは見事に大声を上げて見つかってしまった。こうなってはもう逃げ場などなく恨めしそうな視線を送られたのでわざと勝ち誇った笑みを浮かべてやった。
「若!探しましたぞ!」
「エッジをお借りしてすみません、どうぞ連れていってください」
「いや#name1#殿、すみませんな」
「くそ、てめー!」
耳をつねり引きずられるエッジは抵抗しながらこちらへ必死に振り返る。大きな声で叫ぶように告げられた言葉はわたしの胸の中でどう受け止めればいいかわからなかった。
****
あの後数日の間、エッジとは特にそのことについて話すことはなかった。お世話になった人たちにお礼を伝えて回ったり近場の魔物討伐に参加したりして書庫に篭ることがなかったのもあるけれど。
出立の日が来てアガルトへ向かう船に乗り込み甲板からぼんやりと海を眺める。こんな大変な時に見送りはいらないと城で別れたエッジにはまたエブラーナに来ると約束を交わした。
アガルトへ着いたらミシディア大陸へ向かう船に乗り換えて、そしてデビルロードを通ってバロンへ。テレポを使えばすぐにでもバロンに帰れるけれど、そうしないのは時折船に向かって飛びかかる魚類のような魔物に小さな氷塊をぶつけて船の進路を守るためである。とはいえ陸の上とは違いそう多くはないのでつい考え事をしてしまい、エッジの言葉がわたしの頭の中でぐるぐると回った。
とにかくオレを信じて1回あの野郎に言ってみろ!
どうしてそこまで言い切る自信があるのか全く理解できないけれど、いざ真剣に考えてみるとやっぱりありえない。昔から変わらずカインの想う相手は1人しかいないのだ。
それに言うって、つまり、本人に好きだと伝える、っていうこと。ようやく周りの人へ打ち明けることが出来ただけでも進歩だというのに、そんなのあまりに恥ずかしい。これがまだ10代の頃だったなら勢いでなんとかなったかもしれないけど、残念ながら恋を拗らせたまま歳だけ取ってしまったのだ。今更どう伝えればいいのか見当もつかない。
はぁ。またため息。そもそもバロンに帰ったところでカインには会えないのだから、伝える機会がないのだ。こんなことで悩んでも仕方がない。
もしもいつかカインに会うことがあったら、そのときにまた考えよう。いい加減悩むことに疲れて海の先を見れば水平線に微かに島が浮かび上がった。まずはミシディアで魔物退治、長老へ挨拶。それからバロンに向かって原因の調査。やることは山積みだ。気合を入れ直すために羽織った青いローブを整えて下船の支度を始めた。
再会の時がすぐそこまで迫っているなんて夢にも思うことなく。
元気にしているかしら?
手紙を出すのが遅くなってごめんなさい。わたしは今エブラーナにいるの。
エッジにお願いして忍術と魔法の関係について調べさせてもらっていたのだけど、とっても楽しくて気がついたら随分長居しちゃった。
最近魔物たちが活発化していると聞いたわ。そっちは大丈夫?
そろそろ一度バロンに戻ろうと思っているの。街の様子も心配だしね。
セオドアくんは騎士の試練を受ける頃かな?
あの子なら絶対に達成できるはずだわ。帰ったらお祝いしなくちゃね!
それじゃあセシルにもよろしくね。会えるのを楽しみにしているわ。
「これをバロン城までお願い。いい子ね、ありがとう」
手紙を預けた鳩が空高く飛び立っていくのを見上げてその先のバロンを思い浮かべた。わたしが故郷を出てからもう10年以上が経つ。色々な国、街を渡り歩いて魔法だけでなく多くを学びながら過ごしてきた。バロン軍黒魔道士団所属ながら、あれから白魔法も本格的に習得して、魔物に襲われた街では救護活動に徹することだってあった。
永い時が経ったけれど、こうして親友や家族に手紙を書くこともあれば帰って黒魔道士団の様子を見ることも、はたまた見知った顔が会いに来てくれることもあった。だから寂しいと思うこともなく、あっという間だった。
滞在して数ヶ月が過ぎようとしているエブラーナの更に地下へ続く階段をひたすらに降りていく。向かった先はエブラーナ城内の書庫。本来なら王族以外の人間、それも国外の者が立ち入れるような場所ではないのだけど、調子のいい国王 - エッジ - にダメ元でお願いすればお前なら構わないとすんなり通してもらい、暇さえあれば朝から夜まで没頭して書物を読み漁っていた。
古くからエブラーナに伝わる巻物と呼ばれる変わった形状の書物はわたしには読めない文字も多くあったのでその度にエッジに読み方を教えてもらっていたら彼もここに居座るようになった。居座るといっても、大半は家臣たちに執務に戻るように口うるさく言われたくないから隠れているだけだけど。
「今日も探されてるわよ、若様」
「わかってるって、匿ってくれよ」
「うーん、どうしようかしら」
「お前なぁ、特別に許可してるんだからよ!」
書庫に着くと既にエッジの姿があった。こんなやりとりももう何度目か。道すがら見かけた家臣たちは忙しなく走り回って彼を探しているというのに肝心の本人はこんなところで寛いでいる。これで民に慕われる国王なのだからやはり上に立つべきは人柄が何より大切なのだと、自国の優しい陛下を思い浮かべた。
「あ、そうだ。わたしそろそろバロンに帰るね」
「そうか、なんだもう少しゆっくりしていけばいいのに」
「もう十分お世話になったわ」
たくさん時間をかけたけれど、この膨大な巻物は半分も解読できていない。また遠くないうちにお邪魔して続きを読ませてもらうと心に決めて、帰る理由の近頃の魔物たちの活動について口にすればエッジも思うところがあったのか表情を曇らせる。
「ウチも警備を強化してるが、不安は尽きないもんだな」
「また遊びにくるわ。世界が平和ならいつだって来られるでしょう?」
確かに、と布で覆われた口元が笑っているのを見てわたしも顔を綻ばせた。外でエッジを探す声がこちらへ向いている気配はない。普段彼がこの城の色んなところで油を売っているからこそ宛がたくさんあって彼らも大変そうだ。その気配を探っていることに勘付いたエッジは打って変わって眉間に皺を寄せ難しい顔をする。
「…まだ戻らねーよ。別に執務が嫌なわけじゃねぇ、けど」
「んー…まぁ、戻りたくないのもわかるけれど」
日々口うるさく言われている姿を目にしているので確かにかわいそうにも思えてしまう。それは仕事のことではなく、お妃様を娶って欲しいと。その思いはエブラーナの未来のため当然のことだけれど、国王であろうが1人の人間。相手は誰だっていいわけじゃない。
「リディアとはどうなの?」
「それが何も変わらないから困っちまうんだ」
彼らと出会ってから長い時間が経ったけれどエッジの気持ちは揺るがずにいる。2人が上手くいけばいいと影ながら応援していても未だ進展を見せないままだった。
「エッジはすごいよね、自分の気持ちをまっすぐ伝えられてるもの」
「そうか?」
そういうお前はどうなんだよ。普段ならこういった自身の恋愛の話は適当に流すところだけど、近々エブラーナを出ると決めたからか。机の上に広げられた巻物よりもエッジとの会話を受け止めて昔のこと、彼がいなくなった日のことを思い返した。
「わたしは…、結局一度も言えなかったわ。随分会ってないし、もう2度と会えないかもしれないのに」
今になってたまに考えてしまう。想いを伝えたところで彼との関係が良い方向に変わったとは思えないけれど、それでも自分が前に進むことくらいはできたかもしれない。過ぎたことを悔やんでも仕方ないと思えど、幼い頃に自分とカインの想いに気付いたときから何も変わっていないことへの焦りは少なからず感じていた。
「…その相手って、」
「うん…」
「ゴルベーザか…?!」
「…え?!」
大きな声を上げ、立ち上がった拍子に椅子が倒れてエッジが慌ててわたしの口を塞いだ。馬鹿、静かにしろと言われてもそんなの無理だったし、そもそもエッジが悪い。突飛押しもなく放たれた言葉は案外適当だったわけでもなさそうでエッジも驚いた顔をしていた。
一つ深呼吸をして腰を下ろし、咳払いと共に気持ちを落ち着かせて極めて小さな声でエッジに問いかける。どうしてそうなるの。とんだ誤解も甚だしい。とはいえ、近しい人たちには自分の想い人を告げていたつもりでもエッジには話せていなかったのだとようやく気がついた。
「会えないとか言うから。今頃はお月さんだろ?」
「確かにそれはそうだけど、でも違うわ」
「じゃあ誰なんだよ」
「……カインだよ」
「……?」
目をパチクリと瞬かせて固まるエッジにそんなに驚かなくてもいいのに、と笑いが溢れる。子供の頃からずっと好きで、なんてびっくりするくらい純情で一途だと自分でも思うけど。
「そうじゃなくて、お前がカインを好きなのか?」
「そうだってば」
「…オレはてっきり逆だと思ってた」
今度はこっちが目を瞬かせて固まってしまった。そんなことあるわけないのに。カインが好きなのはわたしじゃないのに、どこをどう取ればそう思うのだろう。エッジは結構疎いところがあるのかもしれない。
「オレがお前らと出会ったとき、ゴルベーザのところにいた#name1#のことを誰よりも気にかけてたのはカインだった」
だからカインにとってそれだけ大事な奴なんだと思ってた。わたしは瞼を伏せて首を横に振った。オレ様の勘は結構当たるのだと自信満々に言われても、わたしはもうその答えを知ってしまっている。
「大事には思ってくれてると思うよ。幼馴染だから、ね」
「いいや、あれは違うな。野郎同士わかっちゃうもんだぜ!」
「カインのことならわたしの方がよく知ってるに決まってるでしょ!」
「どうだかな」
「第一、カインとエッジを一緒にしないで!」
「なんだとてめー!!」
ついムキになって言い合っていたところにガチャリと扉の音がした。夢中になっていたせいで気配に気付くこともなく、もっとも彼らは忍びだから気配を殺すことなんて容易いのだろうけれど、とにかくわたしとエッジは見事に大声を上げて見つかってしまった。こうなってはもう逃げ場などなく恨めしそうな視線を送られたのでわざと勝ち誇った笑みを浮かべてやった。
「若!探しましたぞ!」
「エッジをお借りしてすみません、どうぞ連れていってください」
「いや#name1#殿、すみませんな」
「くそ、てめー!」
耳をつねり引きずられるエッジは抵抗しながらこちらへ必死に振り返る。大きな声で叫ぶように告げられた言葉はわたしの胸の中でどう受け止めればいいかわからなかった。
****
あの後数日の間、エッジとは特にそのことについて話すことはなかった。お世話になった人たちにお礼を伝えて回ったり近場の魔物討伐に参加したりして書庫に篭ることがなかったのもあるけれど。
出立の日が来てアガルトへ向かう船に乗り込み甲板からぼんやりと海を眺める。こんな大変な時に見送りはいらないと城で別れたエッジにはまたエブラーナに来ると約束を交わした。
アガルトへ着いたらミシディア大陸へ向かう船に乗り換えて、そしてデビルロードを通ってバロンへ。テレポを使えばすぐにでもバロンに帰れるけれど、そうしないのは時折船に向かって飛びかかる魚類のような魔物に小さな氷塊をぶつけて船の進路を守るためである。とはいえ陸の上とは違いそう多くはないのでつい考え事をしてしまい、エッジの言葉がわたしの頭の中でぐるぐると回った。
とにかくオレを信じて1回あの野郎に言ってみろ!
どうしてそこまで言い切る自信があるのか全く理解できないけれど、いざ真剣に考えてみるとやっぱりありえない。昔から変わらずカインの想う相手は1人しかいないのだ。
それに言うって、つまり、本人に好きだと伝える、っていうこと。ようやく周りの人へ打ち明けることが出来ただけでも進歩だというのに、そんなのあまりに恥ずかしい。これがまだ10代の頃だったなら勢いでなんとかなったかもしれないけど、残念ながら恋を拗らせたまま歳だけ取ってしまったのだ。今更どう伝えればいいのか見当もつかない。
はぁ。またため息。そもそもバロンに帰ったところでカインには会えないのだから、伝える機会がないのだ。こんなことで悩んでも仕方がない。
もしもいつかカインに会うことがあったら、そのときにまた考えよう。いい加減悩むことに疲れて海の先を見れば水平線に微かに島が浮かび上がった。まずはミシディアで魔物退治、長老へ挨拶。それからバロンに向かって原因の調査。やることは山積みだ。気合を入れ直すために羽織った青いローブを整えて下船の支度を始めた。
再会の時がすぐそこまで迫っているなんて夢にも思うことなく。