トランクィッロ06
お父さんとお母さんが牢に入れられてから1日。わたしはカインの元へ向かうことにした。医者はしばらくの間安静にと言っていたけれど実際に傷がどのくらいで回復するのかわからないし、もしも相談をするなら早い方がいいと思ったから。
医務室への道のりを歩いている途中で前から目当ての人物が歩いてきてわたしは目を見開いて駆け寄った。
「カイン!もう歩いて平気なの?」
「ああ、なんともない。それより#name1#、任務だ。ダムシアンへ向かうぞ」
カインはわたしと目も合わせずに早口でそれだけ言うと立ち止まることなく歩いていく。慌ててカインの腕を掴んで引きずられるように隣に並んだ。
「待ってよ!ねぇ、ダムシアンへ行って何をするの?任務って陛下から?」
ダムシアンは砂漠の中にある火の国。陛下が求める火のクリスタルのある場所でもある。嫌な予感がしてカインの顔を覗き込んでも兜で影になった目元はよく見えない。カインはようやく足を止めてわたしを見下ろすと一言きっぱりと言い放った。
「火のクリスタルを手に入れに行く」
「え?カイン、冗談でしょ?ねぇ…」
そのままカインはわたしの腕を振り解き、お前も早く準備をしろと言い残してどこかへ行ってしまった。行き場を失った手を伸ばしてももう届かない。そのぴんと伸びた背筋はカインらしいはずなのに掛ける言葉が見つからなくてその場に立ち尽くす。
カインの腕を掴んだ時にわずかに感じたゴルベーザの魔力。どす黒いオーラを彼から感じてしまったことに体が震えるような感覚がした。
ゴルベーザだ。あいつが来てからすべておかしくなったんだ。陛下もカインも。あいつが何か知ってるはずだ。
****
「ゴルベーザ!!」
赤い翼部隊長に割り当てられる部屋の扉を両手でドンドン叩く。するとすぐに扉はカチャリと音を立てて開いた。黒い甲冑を着た大男は奥のベッドに腰かけていた。
「どうしたのだ、#name1#」
何事もなかったかのように平然としているゴルベーザに怒りや苛立ちが入り混ざって気持ちがぐちゃぐちゃになる。
「カインに何をしたの」
「…知りたいか?」
睨みつけて殺意を露わにするわたしに臆することもなくゴルベーザはいつもの調子だった。立ち上がりわたしの方へ近づく。
無言のまま見下ろされ、息が詰まるような苦しさを感じた。彼の威圧感に足が竦みそうになるのを必死に抑える。ゴルベーザがわたしに向けて魔力を放つと見たこともない魔法がわたしに襲い掛かった。
「…!…な、なに…?」
「やはり効かないか」
ぽつりと呟いてゴルベーザは挙げていた手を下ろした。大きな魔力が放たれたのにわたしには傷一つ付いていないし、何も変化らしい変化は見られない。ばくばくとうるさい心臓を押さえつけてゴルベーザの方を見上げる。
「#name1#、その瞳の色は何だ」
ちら、と窓に映る自分の顔を見た。普段スカイブルーの瞳はアメジスト色に変わっている。これはわたしが魔法を使う時に起こるものだ。他人からの魔法でこうなったことは記憶にある限り今までに一度だってなかった。目元を抑えて数度瞬きをすれば瞳の色はすぐに元に戻った。
ゴルベーザはまた一歩、二歩とこちらへゆっくり近づいてくる。距離を保つように後退りを繰り返していたわたしの踵がコツンと壁に当たった。目の前に立つゴルベーザは大きな体を屈ませてわたしの顔を覗き込む。
「まぁいい。私の洗脳が効かないのも関係があるのだろう」
「…洗脳…?!」
さっき会ったカインの様子を思い出し、洗脳と言われて一つの答えが頭に浮かび思わず震えた手を握りしめた。
「まさかあなたがカインを操っているの?どうして、そんな……」
「いかにも。あの竜騎士は使える、それだけだ」
「……もしかして陛下も」
「…いや、」
ゴルベーザはそこで言葉を止め、それ以上は何も言わなかった。彼の目的はわからないがクリスタルを欲しているのはゴルベーザで間違いない。そして陛下やカイン、城中の人々を意のままに操り各地で戦を起こさせている。
そんな男に協力するわけにはいかないのに、両親が奴に囚われている以上逆らうわけにはいかない。
「さぁ#name1#。お前のその莫大な魔力を私のために使うのだ」
「……」
「…嫌と言うなら致し方がない」
奥歯をギリ、と噛みしめて下へ視線を落とした。待って、部屋を出ようとするゴルベーザを呼び止めた声はひどく小さかったけれど、ゴルベーザは足を止めゆっくりとこちらへ振り返る。まるでわたしがそうするのをわかっていたかのようだった。
「……あなたの、言う通りにするわ」
「そう言ってくれると思っていた」
見えない兜の中で見たこともない男がほくそ笑んだような気がした。洗脳の術が効かなくても意味がない。結局わたしはゴルベーザの意のままに動かされてしまうのだ。
「ダムシアンへ行き、火のクリスタルを奪ってくるのだ」
「……はい」
わたしは赤い翼に乗り込み、ダムシアンへ旅立った。
ある決意を胸に。
少なすぎる選択肢
(抗うことさえ出来なくて)
医務室への道のりを歩いている途中で前から目当ての人物が歩いてきてわたしは目を見開いて駆け寄った。
「カイン!もう歩いて平気なの?」
「ああ、なんともない。それより#name1#、任務だ。ダムシアンへ向かうぞ」
カインはわたしと目も合わせずに早口でそれだけ言うと立ち止まることなく歩いていく。慌ててカインの腕を掴んで引きずられるように隣に並んだ。
「待ってよ!ねぇ、ダムシアンへ行って何をするの?任務って陛下から?」
ダムシアンは砂漠の中にある火の国。陛下が求める火のクリスタルのある場所でもある。嫌な予感がしてカインの顔を覗き込んでも兜で影になった目元はよく見えない。カインはようやく足を止めてわたしを見下ろすと一言きっぱりと言い放った。
「火のクリスタルを手に入れに行く」
「え?カイン、冗談でしょ?ねぇ…」
そのままカインはわたしの腕を振り解き、お前も早く準備をしろと言い残してどこかへ行ってしまった。行き場を失った手を伸ばしてももう届かない。そのぴんと伸びた背筋はカインらしいはずなのに掛ける言葉が見つからなくてその場に立ち尽くす。
カインの腕を掴んだ時にわずかに感じたゴルベーザの魔力。どす黒いオーラを彼から感じてしまったことに体が震えるような感覚がした。
ゴルベーザだ。あいつが来てからすべておかしくなったんだ。陛下もカインも。あいつが何か知ってるはずだ。
****
「ゴルベーザ!!」
赤い翼部隊長に割り当てられる部屋の扉を両手でドンドン叩く。するとすぐに扉はカチャリと音を立てて開いた。黒い甲冑を着た大男は奥のベッドに腰かけていた。
「どうしたのだ、#name1#」
何事もなかったかのように平然としているゴルベーザに怒りや苛立ちが入り混ざって気持ちがぐちゃぐちゃになる。
「カインに何をしたの」
「…知りたいか?」
睨みつけて殺意を露わにするわたしに臆することもなくゴルベーザはいつもの調子だった。立ち上がりわたしの方へ近づく。
無言のまま見下ろされ、息が詰まるような苦しさを感じた。彼の威圧感に足が竦みそうになるのを必死に抑える。ゴルベーザがわたしに向けて魔力を放つと見たこともない魔法がわたしに襲い掛かった。
「…!…な、なに…?」
「やはり効かないか」
ぽつりと呟いてゴルベーザは挙げていた手を下ろした。大きな魔力が放たれたのにわたしには傷一つ付いていないし、何も変化らしい変化は見られない。ばくばくとうるさい心臓を押さえつけてゴルベーザの方を見上げる。
「#name1#、その瞳の色は何だ」
ちら、と窓に映る自分の顔を見た。普段スカイブルーの瞳はアメジスト色に変わっている。これはわたしが魔法を使う時に起こるものだ。他人からの魔法でこうなったことは記憶にある限り今までに一度だってなかった。目元を抑えて数度瞬きをすれば瞳の色はすぐに元に戻った。
ゴルベーザはまた一歩、二歩とこちらへゆっくり近づいてくる。距離を保つように後退りを繰り返していたわたしの踵がコツンと壁に当たった。目の前に立つゴルベーザは大きな体を屈ませてわたしの顔を覗き込む。
「まぁいい。私の洗脳が効かないのも関係があるのだろう」
「…洗脳…?!」
さっき会ったカインの様子を思い出し、洗脳と言われて一つの答えが頭に浮かび思わず震えた手を握りしめた。
「まさかあなたがカインを操っているの?どうして、そんな……」
「いかにも。あの竜騎士は使える、それだけだ」
「……もしかして陛下も」
「…いや、」
ゴルベーザはそこで言葉を止め、それ以上は何も言わなかった。彼の目的はわからないがクリスタルを欲しているのはゴルベーザで間違いない。そして陛下やカイン、城中の人々を意のままに操り各地で戦を起こさせている。
そんな男に協力するわけにはいかないのに、両親が奴に囚われている以上逆らうわけにはいかない。
「さぁ#name1#。お前のその莫大な魔力を私のために使うのだ」
「……」
「…嫌と言うなら致し方がない」
奥歯をギリ、と噛みしめて下へ視線を落とした。待って、部屋を出ようとするゴルベーザを呼び止めた声はひどく小さかったけれど、ゴルベーザは足を止めゆっくりとこちらへ振り返る。まるでわたしがそうするのをわかっていたかのようだった。
「……あなたの、言う通りにするわ」
「そう言ってくれると思っていた」
見えない兜の中で見たこともない男がほくそ笑んだような気がした。洗脳の術が効かなくても意味がない。結局わたしはゴルベーザの意のままに動かされてしまうのだ。
「ダムシアンへ行き、火のクリスタルを奪ってくるのだ」
「……はい」
わたしは赤い翼に乗り込み、ダムシアンへ旅立った。
ある決意を胸に。
少なすぎる選択肢
(抗うことさえ出来なくて)