初恋十題06


ほしいのは、求めてるのは、ただひとつなの。


今日は陛下のお誕生日。国中が朝から活気づいていた。国王の誕生日は国民全員で祝うもの。民に愛され慕われる陛下がわたしも大好きだ。朝まで明りが消えることはないだろう。わたしたちも例に漏れず毎年この日は4人で集まることになっている。普段からたまに顔を合わせることはあるものの、やはり忙しくなってしまった今では一緒に食事をするのも久しぶりだ。


「#name1#!」

「ローザ。ごめんね、待った?」


わたしが待ち合わせ場所に着くと既にローザはそこにいた。ふるふると首を横に振るとブロンドの髪が揺れて輝く。淡いピンク色のワンピースを着ているローザはとてもきれいだ。わたしは紫色のワンピースに黒いカーディガン。色合いで言うとまさに魔女。まぁ、魔女に違いないんだけど。

セシルとカインは今日の警備の中で結構責任のある立場にいるらしい。人々が浮かれ立つ日は事件も起こりやすい。平和なバロンにそんな心配はいらないはずだけれど、警戒するに越したことはないからと赤い翼を中心に駆り出されるのだと言っていた。




****




少し歩いて城下町に着くといつも以上の賑わいを見せる酒場へ入った。馴染みのマスターにいつも通り注文してテーブルにつく。わたしたちを最後にお店は満席になった。


「ところで#name1#?最近そういう話を聞かないけれどどうなの?」

「…そういう話って…、」

「恋の話に決まってるじゃない!この前告白された人とはどうなったのかしら」


話は先月に遡る。遠征で何度か一緒になっていた騎士団の人に想いを告げられて、返事をするより前にローザにそのことを話したきりになっていたことを思い出した。


「えっとね、一応お付き合いはしたよ。……3日だけ」

「…3日だけ?!どうして?」

「う~ん、付き合ったら好きになれるかなぁって思ったんだけど…。やっぱりだめかもって思っちゃって」

「そう…。彼、次期部隊長候補とも言われていてもったいないけれど、それなら仕方ないわね」


苦笑いを浮かべてごめんねと謝った。どうして私に謝るのよ、とローザは笑っていたけれど、何故謝らなければいけないのかすらも言えなくてごめん。本当の気持ちを親友に隠していることがどうしても後ろめたくて、それでも絶対に言えるはずがなくて、だからわたしはローザとこの話をするのが少し苦手だった。本当なら恋話ってとても楽しいはずなのに。


「ほら、わたしのことはいいわ。そっちこそどうなの?と言っても仲良しなのは変わらないんでしょうけど」

「えぇ、もちろん。あぁでもね、聞いて#name1#。セシルったら…」


セシルの文句を言っているはずなのに、全てが惚気に聞こえるのはつまりそれが真実ということ。頬を膨らませてエピソードを語るローザが可愛らしくてついにこにこと笑ってしまう。


「…だからね、ちゃんと聞いてるかしら、#name1#!」

「うんうん聞いてるよ。それで…、あ!こっちこっち~!」

「ごめんね、待たせて。楽しそうだね、何の話?」

「な、なんでもないわ!2人ともお疲れ様」


いつも顔を覆い隠す兜を外してこちらへ近づく2人に周りの女性客の視線が集まるのがわかる。自然とローザの隣にセシルが座り、わたしの隣にはカインが座った。ほんの少しだけ距離を取ってその横顔を見上げる。不意にカインの青い瞳がこちらを向いて視線が交じり合った。どくん、と胸が鳴った気がして慌てて目を逸らして置いてあったメニュー表を手に取る。

改めて仕切り直して乾杯。カインはお酒に強く、ローザとわたしは普通。セシルは下戸だからいつもアルコールは飲まない。初めて飲んだ時に倒れてしまって以来、どんなに人に勧められても絶対に断っているのだと言っていた。ミルクを頼むセシルを小馬鹿にしたようにカインは鼻で笑うけれど。




****




ガタンと椅子の音が聞こえてわたしはゆっくりと目を開けた。頭がぼーっとする、そうだ。酒場に来ていて、お酒を飲んで、そのまま眠たくなってしまったのだった。音の方を見上げればカインが立ち上がり傍に置いていた装備を手にしていた。セシルたちと何か話している。


「…カイン?カイン、もうかえるの?」

「すまん、起こしたな。明日は朝から遠征なんだ」

「ん、そっか……」


眠いならまだ休んでいろ、そんな声と一緒に頭を撫でられた。それが心地良くて襲いかかる眠気に抗うことなく再び目を閉じる。意識の遠くでセシルたちの声を聞いていた。


「#name1#、そろそろ帰るから起きて。#name1#」

「……」

「…だめね、ぐっすりだわ」

「もう、#name1#ったら。いつもお酒飲んだら寝ちゃうんだから。ローザは大丈夫?」

「ええ、私は大丈夫よ。セシル、#name1#を部屋まで運んであげてくれる?」

「ああ、わかったよ」


#name1#が眠りについている中、セシルは手のかかる妹を背負って店を後にした。ローザも少し頬が赤く染まっているが、足元はしっかりしている。

一方の#name1#は夢を見ていた。幼いころ、カインと初めて出会ったときの夢を。遊び疲れて眠った#name1#をおぶって帰ったカイン。その温もり、目の前に流れる金色を#name1#は鮮明に覚えていた。


「…カイン…」


懐かしい思い出。ふわふわ浮く感覚。あの頃みたいに、わたし、今、誰かにおぶられてる?

出来ることなら帰りたかった。あなたを想う前のあの頃に。何も考えず、ただ一緒にいられたあの頃に。


前後不覚
(それでもわかる、この温もりはあなたじゃない)


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