初恋十題01
君となんて出会わなければよかった。
そうすればこんなに苦しい想いはしなくて済んだのに。
あれはわたしが5歳の誕生日を迎えた頃だった。両親の知り合いの家族がうちへやってくるのだと母から伝えられたのは。珍しいことではなかった。幼いながらに自分の家が貴族というものなのだと教えられていたわたしは、きちんとご挨拶するのよと母から背中を押されて夫婦とその間で母親に手を引かれる少年に向き合った。思えばきっとあの瞬間にわたしは輝く金色に目を奪われたんだ。きれいな金糸。澄んだ蒼。わたしの黒とは大違い。瞳の色は似てるかも。少しだけ年上らしき男の子は立派に挨拶をした。カインっていうんだ。
外で遊んでくるように言われたわたしとカインは日が暮れるまで走り回ってかくれんぼをした。カインが見つけた時にはほとんど眠ってしまっていて、仕方ないな、と優しく声をかけられたのを覚えている。あの頃からもう竜騎士を目指して修行をしていたカインより体力がないのは仕方ないよね。すごくすごく眠かったけれど、目の前の金色を見たら言わずにはいられなかった。
「カイン君の髪、すごくきれいだね」
わたしの言葉にびっくりしたような顔をしたカイン。わずかに揺れる感覚が気持ち良くて眠気が限界にきたわたしはその背中に身を預けた。意識を手放すその前に、ありがとうって聞こえたような気がした。
****
それからわたしとカインはよく一緒に遊ぶようになった。親友のローザも一緒に。3人で過ごすのが大好きだった。竜騎士として修行を積むカインに負けないように黒魔法の勉強を始めたのもこの頃だ。わたしの両親は黒魔道士だから。
そしてカインの両親が亡くなり、カインは士官学校へ行った。悲しそうなカインの瞳、それでもお父さんのような立派な竜騎士になると言ったカインの目はとてもまっすぐだった。バロンの士官学校はとても厳しく忙しい。そんな中でもたまに会いに来てくれたカインがある日連れてきたのがセシルだった。士官学校で出会って、詳しく教えてはくれなかったけれど紆余曲折を経て親友になったみたい。優しいセシルにわたしもローザもすぐに懐いてわたしたち4人は仲良くなった。
****
「セシル、そろそろ帰らんと門限に遅れるぞ」
「もうそんな時間か…。じゃあ2人を送ってから帰ろう」
「今日はいいわ!わたしたちもう少しお話してから帰るから」
「…そうかい?うん、じゃあ遅くならないように気をつけるんだよ」
ローザに押されていつも家まで送ってくれる2人はそのままお城へ戻る。兵舎の門限は年齢によって変わるみたいで、カインたちはまだ暗くなる前に戻らなければいけないのだと言っていた。剣を携えて街を後にする2人を見送って、わたしたちは夕焼けの照らす公園へ足を向けた。
「…実はね、#name1#。私…セシルのことが、好きなの」
「そうなんだ!セシルとローザはきっとお似合いだね。わたし応援してるよ」
「ありがとう。それで、#name1#にはいないの?そういう人!」
自分の気持ちを打ち明けたからか、わたしが応援すると言ったからか、ローザはすごく楽しそうな顔でわたしに詰め寄った。親友のかつてない勢いに押されそうになるけれど、その頃のわたしはまだそんなことを考えたこともなかった。
「うーん、よくわからないや」
曖昧な返事につまらなそうな顔をするローザ。でもきっと#name1#も恋をするわ。そうしたら聞かせてね。うん、そのときは一番にローザに話すわ。約束ね。そんな風に話して交わした指切りはわたしが唯一破ったローザとの約束。彼女にだけは……ううん、誰にも言えるはずがなかったのだから。
夕日が沈んで薄暗くなってしまうまでローザはすごく嬉しそうにセシルの話をしていた。肌寒さを感じようやく時間に気がついて慌てて家に帰ったけれど、なんだかわたしにはローザがとても羨ましく思えた。恋をするローザがとてもきれいで可愛かったから。白馬で迎えにきてくれた王子様にお姫様が恋をして、なんて童話は小さい頃から知っていても、自分がするなんて想像したこともなかった。初めて恋というものを身近に感じてぼんやりと考えてみた。そしてその日ずっと考えてみてもわたしの頭の中にはカインの顔しか出てこなかった。
「わたし、カインが好きなのかな…?」
自分の心に問うために小さく声に出してみれば、とても顔が熱くなって胸がドキドキした。これが恋なのかな、だけどカインはお兄ちゃんみたいな感じで、面倒見がよくて、たまに憎まれ口を叩くけど、やっぱり優しくて、頼りになって…。カインのことを考えるととても幸せで嬉しくて、胸が暖かくなって。だけど正体のわからない不安にドキドキして。眠れない夜が明けて、わたしが出した答えはこうだった。
次にカインにあったときに、自分の気持ちを確かめてみよう。ローザに話すのもそのあと。一緒に好きな人の話を出来たらどれだけ楽しいのだろう。わたしはカインたちが遊びにくるのがとても待ち遠しかった。
****
優しいカインの声、覚えたての黒魔法を見せれば褒めて頭を撫でてくれた。カインが褒めてくれると嬉しい。もちろんセシルやローザだってすごいと言ってくれるし頭を撫でてくれることだってあるけれど、カインに触れられるのは特別嬉しかった。きっとこれが恋なんだ。わたしはこの人が好きなんだなって思った。
思ったのに。
同時に気が付いてしまったの。カインの目線を辿ればいつもローザを見ていた。その心にわたしの割り込む隙なんてなかったんだ。どうして、ちゃんと自覚したのに。こんなに苦しいんだ。恋なんてしなきゃよかった。気付かなければよかった。自分の気持ち、カインの気持ち。全部全部いらない。なにもなければよかったのに、今更なかったことになんか出来なくて。
だからわたしは大好きの気持ちに蓋をして、心の奥に仕舞い込んだ。誰にもわからないように、自分すらもいつかきっと忘れられるように。
突然に唐突に特別な
(初恋と失恋のお知らせ)
そうすればこんなに苦しい想いはしなくて済んだのに。
あれはわたしが5歳の誕生日を迎えた頃だった。両親の知り合いの家族がうちへやってくるのだと母から伝えられたのは。珍しいことではなかった。幼いながらに自分の家が貴族というものなのだと教えられていたわたしは、きちんとご挨拶するのよと母から背中を押されて夫婦とその間で母親に手を引かれる少年に向き合った。思えばきっとあの瞬間にわたしは輝く金色に目を奪われたんだ。きれいな金糸。澄んだ蒼。わたしの黒とは大違い。瞳の色は似てるかも。少しだけ年上らしき男の子は立派に挨拶をした。カインっていうんだ。
外で遊んでくるように言われたわたしとカインは日が暮れるまで走り回ってかくれんぼをした。カインが見つけた時にはほとんど眠ってしまっていて、仕方ないな、と優しく声をかけられたのを覚えている。あの頃からもう竜騎士を目指して修行をしていたカインより体力がないのは仕方ないよね。すごくすごく眠かったけれど、目の前の金色を見たら言わずにはいられなかった。
「カイン君の髪、すごくきれいだね」
わたしの言葉にびっくりしたような顔をしたカイン。わずかに揺れる感覚が気持ち良くて眠気が限界にきたわたしはその背中に身を預けた。意識を手放すその前に、ありがとうって聞こえたような気がした。
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それからわたしとカインはよく一緒に遊ぶようになった。親友のローザも一緒に。3人で過ごすのが大好きだった。竜騎士として修行を積むカインに負けないように黒魔法の勉強を始めたのもこの頃だ。わたしの両親は黒魔道士だから。
そしてカインの両親が亡くなり、カインは士官学校へ行った。悲しそうなカインの瞳、それでもお父さんのような立派な竜騎士になると言ったカインの目はとてもまっすぐだった。バロンの士官学校はとても厳しく忙しい。そんな中でもたまに会いに来てくれたカインがある日連れてきたのがセシルだった。士官学校で出会って、詳しく教えてはくれなかったけれど紆余曲折を経て親友になったみたい。優しいセシルにわたしもローザもすぐに懐いてわたしたち4人は仲良くなった。
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「セシル、そろそろ帰らんと門限に遅れるぞ」
「もうそんな時間か…。じゃあ2人を送ってから帰ろう」
「今日はいいわ!わたしたちもう少しお話してから帰るから」
「…そうかい?うん、じゃあ遅くならないように気をつけるんだよ」
ローザに押されていつも家まで送ってくれる2人はそのままお城へ戻る。兵舎の門限は年齢によって変わるみたいで、カインたちはまだ暗くなる前に戻らなければいけないのだと言っていた。剣を携えて街を後にする2人を見送って、わたしたちは夕焼けの照らす公園へ足を向けた。
「…実はね、#name1#。私…セシルのことが、好きなの」
「そうなんだ!セシルとローザはきっとお似合いだね。わたし応援してるよ」
「ありがとう。それで、#name1#にはいないの?そういう人!」
自分の気持ちを打ち明けたからか、わたしが応援すると言ったからか、ローザはすごく楽しそうな顔でわたしに詰め寄った。親友のかつてない勢いに押されそうになるけれど、その頃のわたしはまだそんなことを考えたこともなかった。
「うーん、よくわからないや」
曖昧な返事につまらなそうな顔をするローザ。でもきっと#name1#も恋をするわ。そうしたら聞かせてね。うん、そのときは一番にローザに話すわ。約束ね。そんな風に話して交わした指切りはわたしが唯一破ったローザとの約束。彼女にだけは……ううん、誰にも言えるはずがなかったのだから。
夕日が沈んで薄暗くなってしまうまでローザはすごく嬉しそうにセシルの話をしていた。肌寒さを感じようやく時間に気がついて慌てて家に帰ったけれど、なんだかわたしにはローザがとても羨ましく思えた。恋をするローザがとてもきれいで可愛かったから。白馬で迎えにきてくれた王子様にお姫様が恋をして、なんて童話は小さい頃から知っていても、自分がするなんて想像したこともなかった。初めて恋というものを身近に感じてぼんやりと考えてみた。そしてその日ずっと考えてみてもわたしの頭の中にはカインの顔しか出てこなかった。
「わたし、カインが好きなのかな…?」
自分の心に問うために小さく声に出してみれば、とても顔が熱くなって胸がドキドキした。これが恋なのかな、だけどカインはお兄ちゃんみたいな感じで、面倒見がよくて、たまに憎まれ口を叩くけど、やっぱり優しくて、頼りになって…。カインのことを考えるととても幸せで嬉しくて、胸が暖かくなって。だけど正体のわからない不安にドキドキして。眠れない夜が明けて、わたしが出した答えはこうだった。
次にカインにあったときに、自分の気持ちを確かめてみよう。ローザに話すのもそのあと。一緒に好きな人の話を出来たらどれだけ楽しいのだろう。わたしはカインたちが遊びにくるのがとても待ち遠しかった。
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優しいカインの声、覚えたての黒魔法を見せれば褒めて頭を撫でてくれた。カインが褒めてくれると嬉しい。もちろんセシルやローザだってすごいと言ってくれるし頭を撫でてくれることだってあるけれど、カインに触れられるのは特別嬉しかった。きっとこれが恋なんだ。わたしはこの人が好きなんだなって思った。
思ったのに。
同時に気が付いてしまったの。カインの目線を辿ればいつもローザを見ていた。その心にわたしの割り込む隙なんてなかったんだ。どうして、ちゃんと自覚したのに。こんなに苦しいんだ。恋なんてしなきゃよかった。気付かなければよかった。自分の気持ち、カインの気持ち。全部全部いらない。なにもなければよかったのに、今更なかったことになんか出来なくて。
だからわたしは大好きの気持ちに蓋をして、心の奥に仕舞い込んだ。誰にもわからないように、自分すらもいつかきっと忘れられるように。
突然に唐突に特別な
(初恋と失恋のお知らせ)