03
授業は一時中断するハプニングはあったが、別教室で再開して予定通りに終了した。魔障の儀式は他の悪魔にやらせて、無事に塾生全員が悪魔を目視することが出来るようになった。
塾が終わった後自分の寮の部屋へ向かうと、そこには出雲ちゃんと朴さん、それともう一人の女の子がいた。1年生は4人部屋。そのうちの3人が塾生だとは偶然なのか図られたのか、ともかく寮生活への不安からもようやく解放された。
「ああ、アンタだったの?最後の1人」
「#name1#さん、よろしくね」
「うん、よろしく!わたし、#name1##name2#っていうの、これから同じ部屋で宜しくね」
2人と、初めて会った子に挨拶をして、みんなでいろんな話をした。こうして友達とちゃんと話すなんていつ以来だろう?なんとか、この学園で無事に過ごせそうな気がした。
****
それから数日、新しい環境で目まぐるしく動き回る日常に振り回されるわたしは、学校でも塾でも寮でも勉強に追われた。流石正十字学園、普通科の一年生だとしてもやっぱり課題は結構出るし、それに加えて塾の勉強もある。昔少しだけ祓魔術については齧っていたとはいえ、子供の出来る範囲内だったんだと思い知らされた。
「…これを職員室に、と」
今は学園の昼休み。運悪く4限目の先生にノートを集めて持ってくるように言われてしまったわたしは、購買部に行くことも叶わずにこうしてクラス全員分のノートを持って廊下に出た。こういうときに広すぎる校舎は困る。入学したてのわたしが職員室なんてどう行ったらいいかなんてわかるものか。今日はお昼抜きかな、いやそもそもちゃんと辿り着くのかな。
初日に受けた学校案内の記憶を引っ張り出すと職員室は2階にあったはず。行ってみれば流石に分かるだろう、と賑やかな校舎を歩いて2階に降りてみる。変わらず広すぎる廊下があるだけで、どこが職員室かなんて検討もつかないわたしはとりあえず歩きまわることにした。ぐるぐると回っているような気もしてきたころ、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい…」
「いや、こっちこそごめんなぁ。ってあれ?#name1#さんやないですか」
聞き覚えのある声に顔を上げてみると、そこには見たことのあるピンク色の髪が見えた。彼は確か、祓魔塾の京都弁の三人組の…、
「志摩くん?こっちで会うなんて初めてだね。1人なの?」
「いつでも坊や子猫さんと一緒って訳やないですよ。#name1#さんこそ、そないにノート抱えてどないしはったん?」
塾生のみんなとは一応自己紹介だけはしてあった。だから、名前と顔は一致するんだけれど、ほとんど話したことはないから少し緊張する。そんなことは一切気にせず志摩くんは人当たりのいい笑顔で話してくれた。
「…実は、職員室を探して…」
2階にあるはずなんだけど、さっきから全然見つからないの。そう言ったわたしに志摩くんはタレた目をこれでもかとしっかり見開いて、膨らませた頬が堪え性なくすぐに弾け飛んだ。
「…そ、そんなに笑わなくても」
「だって、#name1#さん、ここ3階やで?」
うそ。言葉を失ったわたしと、未だ笑い続ける志摩くん。窓から見下ろした景色は確かに2階にしては高いけれど、天井の高いこの学園ならおかしくもないと思ったのに。恥ずかしくてお礼を言って早々に立ち去ろうとした。だってお昼休みは残りたったの15分で、今までずっと迷ってたなんてバカみたいだ…。
「あ、ちょい待ち、#name1#さん!俺が一緒に行ったるよ」
また迷ったら大変やろ?だなんて笑顔で言う志摩くんに、赤くなった顔を隠しながら、頷いた。
****
階段で下に降りると、案外すぐに見つかった職員室。もうこの場所は忘れないぞ…。遅かったな、って先生に言われたときは流石にカチンときたけれど、迷ったわたしが悪いと言い聞かせて、廊下に出ると志摩くんが待っていてくれた。
「志摩くん!本当にありがとう、助かりました」
「ええよ、そんなことより#name1#さん、お昼食べてないんちゃう?」
「…えっ、食べてない…けど」
「やっぱりずっと迷ってたんやろ。こんなんしかないけど良かったら食べてください」
購買部の紙袋のようなものをくれた志摩くん。中を覗くとパンが1つ入っていた。
「後で食べよー思て残しといたんやけど、#name1#さんにあげますよ」
「いやでも悪いよ」
「人の好意はちゃんと受け取らなあかんよ?」
返そうとしたわたしの腕の中に紙袋を押しつけた志摩くんは、せやなー、と悩みだすと、わたしに一つ提案をした。
「ほんなら、代わりにアドレス教えて欲しいです」
「…そんなことでいいの?」
「もちろん!あ、でも欲を言うなら、#name2#ちゃんって呼ばしてもらえたらもう最高なんやけど」
冗談めかしていう彼に、わたしは二つとも了承をしてポケットに手をいれる。そこにあると思っていた携帯がなく、反対にもスカートの方にも入っていなくて罰が悪そうに志摩くんを見上げた。
「…あ、志摩くん…。携帯、教室に置いてきちゃったみたい。アドレス、塾のときでもいい?」
「全然、かまへんで」
「ありがとう。じゃあ、また後でね!」
手を振って別れて、わたしは教室に戻った。クラスメイトに遅かったね、なんて言われて迷ったと返したらまた笑われた。え、みんなもう場所とか覚えたの?
****
授業は無事に終わりあとは塾だけになる。クラスの友達との会話を早々に切り上げて廊下の隅っこにある倉庫の扉から塾の鍵を使った。
薄暗い廊下を歩きながら持ってきたテキストを思い浮かべて、今日の授業の予習内容を確認する。最初が悪魔薬学、次がグリモア学で…。やってきた課題の量を思い出してげっそりしながらわたしはいつもの教室へ入った。
「出雲ちゃん、のりちゃん、おはよう」
「ふふ、#name2#ちゃん、もうおはようの時間じゃあないよ?」
「遅かったじゃない」
「うん、6限目が体育でさ。着替えてたの」
塾もまだ片手で数えられる日しか来ていないけれど、なんとなく座る席は決まってる。わたしたち女子が教壇に向かって右側、奥村くんが真ん中、京都3人組が左側で、フードの山田くんと人形の宝くんが後ろの方。
席について教科書やノートを出していると、志摩くんがこちらへ向かってきた。
「#name2#ちゃん、さっきの約束覚えてはる?」
「志摩くん!うん、もちろん覚えてるよ。お昼は本当にありがとう!」
携帯をひらひらさせる志摩くんに自分の携帯を取り出して笑うと、出雲ちゃんがわたしの腕を掴んだ。
「ちょっと、コイツに連絡先教えるつもり!?」
「…え?うん、今日のお昼休みに約束したんだ」
「こんな女ったらしに教えちゃだめよ!何されるかわかんないじゃない!」
出雲ちゃんはすごい剣幕で制止するけれど、同じ塾生なんだし連絡先を知っていても損はないと思う。女癖に関してはまぁ、なんとかなると思うし。
わたしが来るのが遅かったせいか、交換している最中に先生が入ってきてしまった。もうそんな時間か、なんて思って先生を見ると、奥村先生はわたしと志摩くんを横目で見て教壇の前に立った。その後ろには着物を着た金髪の女の子。
「授業を始めます。志摩くん、席に着いて下さい」
「はーい。そんじゃ、あとでメールします」
手を振って席に戻る志摩くんを見届けてから奥村先生は隣の女の子を紹介した。
「新しい塾生の杜山しえみさんです」
「よ、よろしくおねがいします…!!」
顔が真っ赤になって緊張している様子の女の子は雰囲気にぴったりな鈴を転がしたような声でなんとか一言発すると、奥村くんの隣に腰を下ろした。そういえば、奥村くんとは学園でもクラスが一緒なのにほとんど話したことがないなぁ。先生と双子の兄弟らしいけれど、その他には何も知らない。今度、話してみたいなぁ。
そして不意に視線を黒板から左のピンク色に向けてみる。すると偶然にも志摩くんもこっちを見た。へらーっと笑って先生に見えないように手を振ってきた彼に、わたしも見えないように小さく手を振り返した。
目が合った、瞬間が、永遠
塾が終わった後自分の寮の部屋へ向かうと、そこには出雲ちゃんと朴さん、それともう一人の女の子がいた。1年生は4人部屋。そのうちの3人が塾生だとは偶然なのか図られたのか、ともかく寮生活への不安からもようやく解放された。
「ああ、アンタだったの?最後の1人」
「#name1#さん、よろしくね」
「うん、よろしく!わたし、#name1##name2#っていうの、これから同じ部屋で宜しくね」
2人と、初めて会った子に挨拶をして、みんなでいろんな話をした。こうして友達とちゃんと話すなんていつ以来だろう?なんとか、この学園で無事に過ごせそうな気がした。
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それから数日、新しい環境で目まぐるしく動き回る日常に振り回されるわたしは、学校でも塾でも寮でも勉強に追われた。流石正十字学園、普通科の一年生だとしてもやっぱり課題は結構出るし、それに加えて塾の勉強もある。昔少しだけ祓魔術については齧っていたとはいえ、子供の出来る範囲内だったんだと思い知らされた。
「…これを職員室に、と」
今は学園の昼休み。運悪く4限目の先生にノートを集めて持ってくるように言われてしまったわたしは、購買部に行くことも叶わずにこうしてクラス全員分のノートを持って廊下に出た。こういうときに広すぎる校舎は困る。入学したてのわたしが職員室なんてどう行ったらいいかなんてわかるものか。今日はお昼抜きかな、いやそもそもちゃんと辿り着くのかな。
初日に受けた学校案内の記憶を引っ張り出すと職員室は2階にあったはず。行ってみれば流石に分かるだろう、と賑やかな校舎を歩いて2階に降りてみる。変わらず広すぎる廊下があるだけで、どこが職員室かなんて検討もつかないわたしはとりあえず歩きまわることにした。ぐるぐると回っているような気もしてきたころ、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい…」
「いや、こっちこそごめんなぁ。ってあれ?#name1#さんやないですか」
聞き覚えのある声に顔を上げてみると、そこには見たことのあるピンク色の髪が見えた。彼は確か、祓魔塾の京都弁の三人組の…、
「志摩くん?こっちで会うなんて初めてだね。1人なの?」
「いつでも坊や子猫さんと一緒って訳やないですよ。#name1#さんこそ、そないにノート抱えてどないしはったん?」
塾生のみんなとは一応自己紹介だけはしてあった。だから、名前と顔は一致するんだけれど、ほとんど話したことはないから少し緊張する。そんなことは一切気にせず志摩くんは人当たりのいい笑顔で話してくれた。
「…実は、職員室を探して…」
2階にあるはずなんだけど、さっきから全然見つからないの。そう言ったわたしに志摩くんはタレた目をこれでもかとしっかり見開いて、膨らませた頬が堪え性なくすぐに弾け飛んだ。
「…そ、そんなに笑わなくても」
「だって、#name1#さん、ここ3階やで?」
うそ。言葉を失ったわたしと、未だ笑い続ける志摩くん。窓から見下ろした景色は確かに2階にしては高いけれど、天井の高いこの学園ならおかしくもないと思ったのに。恥ずかしくてお礼を言って早々に立ち去ろうとした。だってお昼休みは残りたったの15分で、今までずっと迷ってたなんてバカみたいだ…。
「あ、ちょい待ち、#name1#さん!俺が一緒に行ったるよ」
また迷ったら大変やろ?だなんて笑顔で言う志摩くんに、赤くなった顔を隠しながら、頷いた。
****
階段で下に降りると、案外すぐに見つかった職員室。もうこの場所は忘れないぞ…。遅かったな、って先生に言われたときは流石にカチンときたけれど、迷ったわたしが悪いと言い聞かせて、廊下に出ると志摩くんが待っていてくれた。
「志摩くん!本当にありがとう、助かりました」
「ええよ、そんなことより#name1#さん、お昼食べてないんちゃう?」
「…えっ、食べてない…けど」
「やっぱりずっと迷ってたんやろ。こんなんしかないけど良かったら食べてください」
購買部の紙袋のようなものをくれた志摩くん。中を覗くとパンが1つ入っていた。
「後で食べよー思て残しといたんやけど、#name1#さんにあげますよ」
「いやでも悪いよ」
「人の好意はちゃんと受け取らなあかんよ?」
返そうとしたわたしの腕の中に紙袋を押しつけた志摩くんは、せやなー、と悩みだすと、わたしに一つ提案をした。
「ほんなら、代わりにアドレス教えて欲しいです」
「…そんなことでいいの?」
「もちろん!あ、でも欲を言うなら、#name2#ちゃんって呼ばしてもらえたらもう最高なんやけど」
冗談めかしていう彼に、わたしは二つとも了承をしてポケットに手をいれる。そこにあると思っていた携帯がなく、反対にもスカートの方にも入っていなくて罰が悪そうに志摩くんを見上げた。
「…あ、志摩くん…。携帯、教室に置いてきちゃったみたい。アドレス、塾のときでもいい?」
「全然、かまへんで」
「ありがとう。じゃあ、また後でね!」
手を振って別れて、わたしは教室に戻った。クラスメイトに遅かったね、なんて言われて迷ったと返したらまた笑われた。え、みんなもう場所とか覚えたの?
****
授業は無事に終わりあとは塾だけになる。クラスの友達との会話を早々に切り上げて廊下の隅っこにある倉庫の扉から塾の鍵を使った。
薄暗い廊下を歩きながら持ってきたテキストを思い浮かべて、今日の授業の予習内容を確認する。最初が悪魔薬学、次がグリモア学で…。やってきた課題の量を思い出してげっそりしながらわたしはいつもの教室へ入った。
「出雲ちゃん、のりちゃん、おはよう」
「ふふ、#name2#ちゃん、もうおはようの時間じゃあないよ?」
「遅かったじゃない」
「うん、6限目が体育でさ。着替えてたの」
塾もまだ片手で数えられる日しか来ていないけれど、なんとなく座る席は決まってる。わたしたち女子が教壇に向かって右側、奥村くんが真ん中、京都3人組が左側で、フードの山田くんと人形の宝くんが後ろの方。
席について教科書やノートを出していると、志摩くんがこちらへ向かってきた。
「#name2#ちゃん、さっきの約束覚えてはる?」
「志摩くん!うん、もちろん覚えてるよ。お昼は本当にありがとう!」
携帯をひらひらさせる志摩くんに自分の携帯を取り出して笑うと、出雲ちゃんがわたしの腕を掴んだ。
「ちょっと、コイツに連絡先教えるつもり!?」
「…え?うん、今日のお昼休みに約束したんだ」
「こんな女ったらしに教えちゃだめよ!何されるかわかんないじゃない!」
出雲ちゃんはすごい剣幕で制止するけれど、同じ塾生なんだし連絡先を知っていても損はないと思う。女癖に関してはまぁ、なんとかなると思うし。
わたしが来るのが遅かったせいか、交換している最中に先生が入ってきてしまった。もうそんな時間か、なんて思って先生を見ると、奥村先生はわたしと志摩くんを横目で見て教壇の前に立った。その後ろには着物を着た金髪の女の子。
「授業を始めます。志摩くん、席に着いて下さい」
「はーい。そんじゃ、あとでメールします」
手を振って席に戻る志摩くんを見届けてから奥村先生は隣の女の子を紹介した。
「新しい塾生の杜山しえみさんです」
「よ、よろしくおねがいします…!!」
顔が真っ赤になって緊張している様子の女の子は雰囲気にぴったりな鈴を転がしたような声でなんとか一言発すると、奥村くんの隣に腰を下ろした。そういえば、奥村くんとは学園でもクラスが一緒なのにほとんど話したことがないなぁ。先生と双子の兄弟らしいけれど、その他には何も知らない。今度、話してみたいなぁ。
そして不意に視線を黒板から左のピンク色に向けてみる。すると偶然にも志摩くんもこっちを見た。へらーっと笑って先生に見えないように手を振ってきた彼に、わたしも見えないように小さく手を振り返した。
目が合った、瞬間が、永遠